国連の世界目標「SDGs(エスディージーズ)」※1で、性別や障害などによらず、全ての人々の平等を促進することが掲げられるなど、「共生社会」の実現は国際的課題としてとりくまれています。
そんななか、日本は、「子どもの権利条約」に基づいて、差別防止などの是正勧告を国連から受けています。
また、各国の男女格差を示す「ジェンダーギャップ報告書」で、先進国中、最下位になるなど、日本の課題が明らかになっています。
今号では、学校や地域社会で実践できる「共生社会」に向けたとりくみについて考えます。
※1 「Sustainable Development Goals」の略称。2015年に国連サミットで採択された持続可能な開発目標として、30年までに達成をめざす。
日本の学校では障害の種類や程度に応じた「特別支援教育」が実施されています。2019年度の調査では、「特別支援学校・学級」に通う児童生徒は約42万人と12年間で約2倍になっています(図表1)。
また、「通級による指導」※2を受ける児童生徒数も年々増えており、同制度が開始された1993年度と比べて約9倍になっています(図表2)。
こうした現状に対し、19年、国連子どもの権利委員会は、障害の有無による差別などを減少させ、防止する措置を講ずるよう勧告しました。01年に国連で採択された「障害者の権利に関する条約」では、「障害者が地域社会において、インクルーシブで、質が高く、無償の初等・中等教育を受けられること」とされています。また、学校教育法施行令では、本人や保護者の意見を最大限尊重した就学先決定を求めており、地域の学校でのインクルーシブ教育のとりくみの重要性が高まっています。
性的マイノリティーの子どもへの対応については、文部科学省が、15年に都道府県教育委員会などに通知を出し、相談体制の充実を求めました。
日本におけるLGBTに関する複数の調査では、回答者の3.3〜10%が当事者であるとの結果が示されています。海外調査でも、同程度の割合となっていますが、10〜30代の若年世代ほど、その割合は高い傾向にあります(図表3)。このことからも、若年世代が多様な性について、正しく学ぶためのとりくみが進むことが期待されます。
ジェンダー平等の分野では、男女格差を数値化した「ジェンダーギャップ報告書」(19年)で、日本は153カ国中、過去最低の121位、G7(主要7カ国)で最下位でした(図表4)。経済と政治の分野で格差が顕著で、男女の賃金格差や女性議員・首長の少なさが指摘されています。ジェンダー平等の達成は、「SDGs」にも組み込まれており、学校においてもその重要性を学ぶとりくみが求められています。
こうした背景のなか、共生社会の実現に向けて地域の学校で行われている実践事例を紹介します。
※2 通常の学級に在籍しながら、障害の状況に応じた特別な指導を週1〜8時間程度行う特別支援教育の一つ。
児童・生徒への事前アンケート
「女性の年齢階級別労働力率」グラフ資料
アンケート用紙はこちらからダウンロードできます。
指導計画・学習活動
「男なのだから〇〇」、「女なのだから〇〇」と言われたり、聞いたりした経験の有無について問いかける。
【補足】
挙がったエピソードに含まれた、性別を理由とした潜在的な刷り込みに注目し、「働くこと」と関連付けていく。
「女性の年齢階級別労働力率」のグラフを提示し、「30代で労働力人口の割合が下がり、45歳くらいで上がるのはなぜか?」と問いかける。
【補足】
グラフを提示する際にデータについての簡単な説明を行う。
「女性の年齢階級別労働力率」のグラフは
こちらからダウンロードできます。
事前アンケートのQ1(自らが望む1日の働き方)とQ3(パートナーに望む1日の働き方)の集計結果のグラフを示し、子ども同士で気づいたことを話し合ってもらう。
【補足】
本人が望む1日の働き方と社会や異性が求めるものとの間にどんな関係があるのか、とくにジェンダーの差異に注目して見ていく。
【留意点】
調査設計上、必要で用いた仮定(結婚して子どもができたなど)については、その旨を説明し、どんな生き方を選択するかは個人の自由であることを伝える。
事前アンケートのQ2(自らが望む人生の働き方)とQ4(パートナーに望む人生の働き方)の集計結果のグラフを示し、子ども同士で気づいたことを話し合い、発表してもらう。
【補足】
本人が望む人生の働き方と社会や異性が求めるものとの間にどんな関係があるのか、とくにジェンダーの差異に注目して見ていく。
「女性の年齢階級別労働力率」のグラフを再提示し、「このような状況を変えるとすれば一人ひとりがどう考えればよいか」と問いかけ、意見を発表してもらう。
【補足】
30代女性が働きたくても働けず、男性が育児参加しにくい社会の状況を確認する。児童生徒一人ひとりが無意識のうちにジェンダーバイアスを持っていないかを考えてもらう。
ジェンダーニュートラルなトイレ表示の画像、
LGBTsに関する解説資料など
(1)男女のピクトグラムで「男女共用」を示す (2)様々なセクシュアリティーをピクトグラムで表現 (3)レインボーカラーで性的マイノリティーにも配慮したトイレであることを表現 (4)「All Gender」などの言葉で性別問わず使えるトイレであることを示す
【様々なトイレ表示の例】は
こちらからダウンロードできます。
指導計画・学習活動
ジェンダーニュートラルなトイレ表示の画像を提示し、「この表示を見たことがあるか」、「この表示の意味は何か」と問いかける。
【補足】
表示の色や様々な立場の人を表すシルエットについても言及し、様々な意見が出るように促す。
「LGBTsという言葉を聞いたことがあるか」「その意味は何か」と問いかける。その後、LGBTsの定義について解説する。
【補足】
調査結果などを用いて、LGBTsの推計人口などについても紹介する。
「ジェンダーニュートラルな表示のトイレを使用することによって生じるマイナスな面はないか」と問いかけ、何人かに発表してもらう。
【留意点】
表示のあるトイレを利用すること自体が、当事者であると示すことにつながり、苦痛を伴う可能性があることにもふれる。
各地の自治体で導入されている同性婚パートナーシップ制度について紹介し、国や自治体、企業などで多様な性のあり方を受け入れるとりくみが始まっていることを伝える。
【補足】
国内における同性婚カップルの事例などについて、新聞やネットニュースの記事を活用して解説する。
「全ての人が生きやすい社会を作るため、自分には何ができるか」と問いかけ、子ども同士で話し合ってもらう。
【補足】
多様な意見や考えが出るように、正解はないことを伝える。まずは当事者の痛みや生きづらさに気づき、共感し、理解しようする姿勢が大切だと伝える。
読み物教材(前半・後半)、学習プリント
指導計画・学習活動
「班の人が休みに何をしていたか知っているか」と問いかけ、子ども同士で近況を共有する。
【補足】
導入として、お互いのことを知っているようで知らないことが多いと気づかせる。
読み物教材(前半)と学習プリントを配布。全員で読みながら登場人物の関係を整理する。
読み物教材(前半)概要
中学3年の通常学級で共に学ぶ3人。ユウには障害がある。授業中に突然走り出したり、大声を出したりしてしまう。2年から同じクラスのカズとミキは積極的にユウと関わろうとする。正義感の強いカズはユウの言動を一方的に注意したり、制止したりしてしまう。その結果、ユウは…。。
「カズの関わりでユウはどう変わったと思うか」と問いかけ、考えを学習プリントにまとめてもらう。
【補足】
普段の生活において、「自分たちもカズと同じような言動になっていることはないか」と問いかけ、考えてもらう。
読み物教材(後半)を配布して全員で読む。
読み物教材(後半)概要
自分の思いが伝わらずにイラ立つカズ。その一方で、ユウは自分の話をちゃんと聞いてくれるミキに心を許していく。その様子を見て、カズは自らの「上から目線」の言動に気づく。
「どんなクラスならユウが安心して過ごせるか」と問いかけ、個人の考えを学習プリントにまとめてもらう。その後、子ども同士で話し合い、発表してもらう。
【補足】
多様な意見や考えが出るように、正解はないことを伝える。
「仲間の夢を知っているか」、「共に夢を叶えるためにどんな関わりをしていくか」と問いかけ、考えを学習プリントにまとめ、発表してもらう。
【補足】
相手の立場になってお互いを理解しようとする姿勢が大切なことを伝える。