2024年10月に公表された文部科学省の最新の調査によると、全国における長期欠席者数は約50万人にのぼりました。いじめの認知件数、暴力行為の発生件数なども過去最多となるなど、教育現場の厳しい状況が明らかになっています。
学校における働き方改革が進められる中、令和7年度文部科学省概算要求の内容を日本教職員組合が実施した意識調査の結果を合わせて見ていきます。
文部科学省が公表した「令和5年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」の結果によると、2023年度の全国における長期欠席者数は約50万人に上りました。
このうち、「不登校」は11年連続の増加で34万6482人、前年度から約5万人増えて過去最多となりました(図表1)。児童生徒1000人当たりの不登校児童生徒数も、37.2人と前年度比で約2割増加しました。
また、23年度の小中高特別支援学校におけるいじめの認知件数は、73万2568件で、前年度から5万件以上増加しました。いじめを認知した学校数の割合は、全学校の8割以上に上ります。特に小学校は9割以上の学校でいじめを認知しており、1校当たりの認知件数は約30件に上ります。
いじめの「重大事態」の発生件数は、前年度比で約3割の増加となる1306件でした(図表2)。「いじめにより当該学校に在籍する児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき」と規定される1号事案が648件、「いじめにより当該学校に在籍する児童等が相当の期間学校を欠席することを余儀なくされている疑いがあると認めるとき」と規定される2号事案は864件で、いずれも前年度から200件以上増加して過去最多となっています。
最後に23年度の小中高特別支援学校における暴力行為の発生件数は、10万8987件で前年度比で1割以上増加しました(図表3)。特に、小学校における暴力行為発生件数は、前年度に比べ8554件増加して、過去最多となっています。
形態別では、前年度に引き続き、小中高等学校において、最も割合の高い「生徒間暴力」が全体の7割を占め、増加が顕著に表れています。
24年7〜9月に日本教職員組合が実施した「学校現場の働き方改革に関する意識調査」によると、24年度の教員の勤務日(平日)における1日あたりの在校等時間の平均は10時間23分でした。前年度から17分短縮したものの、依然として高止まりの状態です(図表4)。また、法定労働時間の範囲である在校等時間「8時間未満」の割合は4.5%でした。このことから、95.5%とほとんどの教員が時間外労働をしている実態が明らかになりました。
校種別に見ると、在校等時間が最も長いのは中学校の平均10時間48分。部活動の顧問別(全校種)で見ると、運動部の顧間をしている人の平均は10時間41分、文化部の顧問をしている人の平均は10時間30分と、顧問をしていない人と比較して30〜40分ほど長くなっています。
次に、1週間の持ち授業時数(コマ数)について校種別に見ていきます。小学校は「25コマ以上」が約半数を占め、平均値は23.44です。中学校は、「15コマ以上」と「20コマ以上」、高等学校は「15コマ以上」が多くを占めます。(図表5)。
同調査では、「望ましいと思う持ち授業時数」についても聞いています。「望ましいコマ数」の平均は、小学校が19.70、中学校が14.84、高等学校が13.38となっています。現在の持ち授業時数と対比してみると、いずれの学校種でも実際の持ち授業時数を下回っています。小学校では約4コマ、中学校や高等学校、特別支援学校でもそれぞれ2〜3コマの削減が求められています。
様々な教育課題に対応するための施策や予算はどうなっているのか、令和7年度文部科学省概算要求の主な内容を見ていきます(図表6)。
まず注目すべきは、「人」への投資です。教職員定数の改善として、前年度予算額から170億円増額して要求。教員の持ち授業数の削減につながると期待される小学校での教科担任制について、高学年に加えて中学年でも推進するとしています。
不登校・いじめ対策等についても前年度から20億円以上増額して要求されました。学びの多様化学校の設置・運営支援や、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワ―カーの配置充実などを行うとしています。
また、部活動の地域クラブ活動への移行に向けた実証事業に前年度予算約4倍増の46億円、部活動指導員の配置支援として20億円を要求するなど、中学校における部活動指導の負担軽減のための予算要求がなされています。
教員をめざす若者を応援
未来の先生応援プロジェクト
公立学校共済組合や文部科学省、各都道府県教育委員会の協力のもと、公立学校共済組合友の会は「未来の先生応援プロジェクト」を25年度から順次スタートさせます。
同プロジェクトは、全国的に教員不足が深刻化する中、教員をめざす若者を支援するとりくみです。給付型奨学金支給事業や女子学生会館運営事業を柱としています。
同会では同プロジェクトへの支援や退職後の学校教職員の福利厚生事業の運営のため、会員を募っています。プロジェクトや会員制度の詳細についてはホームページにてご確認ください。
先生がイキイキと働ける
持続可能な学校づくりを
日本PTA全国協議会
太田敬介 会長
これまで、教育に関して社会は学校に何でもかんでもお任せし過ぎていたように思います。学校という機能を持続可能なものにしていくため、私たち保護者も含めて社会全体で様々な役割を分担していくことが大切です。
そのためにも、業務をサポートしてくれるスタッフの配置や少人数学級のさらなる推進など、引き続き教職員定数を改善していく必要があると思いますし、何よりも先生たち自身がそれを望んでいると感じます。子どもにとって一番身近な働くおとなは先生たち。まずは先生たちがイキイキと働ける状況を作ることが重要です。
学校給食の実施や教科書の無償化などは、保護者が声を上げた結果、実現した教育施策です。これからも日本全国の保護者の総意として、声を上げ続けることが、私たちの使命だと考えています。
教職員定数を改善し
教科担任制の実施を
全国連合小学校長会
植村洋司 会長
「働き方改革の加速化」「指導・運営体制の充実」「処遇改善」という3つの柱を一体的・総合的に推進することが重要です。
小学校における課題の一つが、教員の持ち授業時数の多さです。個別の施策のうち、中学年での教科担任制の推進には大いに期待しています。
3年生から理科や社会、総合的な学習の時間などが加わり、学習量が大幅に増加し、4年生は5、6年生と同じ授業時数です。高学年で教科担任制が実施されている学校では、持ち授業時数が減った分、教材研究や授業づくりの時間が取れるようになり、質の向上に繋がっているとの声が上がっています。しかしながら、全国的に見れば実施にあたっての十分な教員数が配置されていません。国にはしっかりと予算を確保し、教職員定数を改善した上での着実な実施を要望したいと思います。
支援スタッフ配置充実で
きめ細やかな教育を実現
全日本中学校長会
青海正 会長
上級学校などへの進学を見据え、子どもたちに一定の学力を保証するためには、一人ひとりに合わせた教員の細かな関わりが大切です。そうした時間やゆとりを確保するためにも、「教員業務支援員」や「部活動指導員」の配置充実は非常に重要だと考えています。ただし、「予算がついても人が見つからない」とならぬよう、待遇面についてもしっかりと考慮し、安定的な人材確保をする必要があります。
現在、学校には不登校や特別な支援が必要な子どもが増えています。家庭や個人の特性など、事情の異なる子どもに個別に対応するためには、核となる部分への教員の関わりはもちろんのこと、専門的な知識を有する支援スタッフのサポートが必要です。スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの配置充実、生徒指導担当教師の全中学校への配置などが実現することを願います。
持ち授業時数を軽減して
子どもと向き合う時間を
日本教職員組合
梶原貴 中央執行委員長
教育立国を掲げるからには、OECD各国平均以上の教育予算を安定的に確保するべきで、中教審答申の実現はあくまで第一歩との認識です。「教職調整額10%以上」は処遇改善として実現を求めるものの、「増額したのだから、長時間労働はやむを得ない」との風潮が広がることがあってはなりません。処遇改善と長時間労働是正の取り組みは分けて考えるべきです。働き方改革の進捗を見定めつつ、必要な具体策についての議論は、しっかり継続していかなければなりません。
今は、教員の多くが教材研究や授業準備を勤務時間外に行っています。勤務時間内に行うには持ち授業時数が多すぎるのです。いじめや不登校が最多となる中、もっと子どもと向き合う時間が欲しいというのが多くの教職員の願いです。持ち授業時数に上限を設けるなど、必要な施策を講じるように求めていきます。