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災害と学校

 体育館が避難所となったり、学校再開の時期が遅れたりと、2024年1月1日に発生した能登半島地震は被災地の学校現場に大きな影響をあたえました。
 長期化する避難生活やたび重なる余震などにより、子どもや教職員は大きなストレスを抱えていることから、継続的な「心のケア」が求められています。
 今号では、「災害・学校支援チーム(EARTH)」(事務局:兵庫県教育委員会)として、被災地の学校で支援を行った現役の教職員の座談会や編集部に寄せられた声に応えてストレス対処法をご紹介します。

座談会参加者

  • 金戸竜さん

    南あわじ市立阿万小学校 3年生担任。EARTH歴4年。被災地派遣は今回が初めて。

  • 枡田順子さん

    明石北高等学校 総務部長 2016年の熊本地震をきっかけにEARTH員に。

  • 中森慶さん

    丹波篠山市立城東小学校 6年生担任。30歳でEARTHに入り、16年目。

  • 投石悠一さん

    伊丹市立花里小学校 6年生担任。EARTH歴5年で、被災地派遣は今回が初めて。

  • 中玉利展子さん

    路市立高浜小学校 養護教諭。EARTH歴17年。東日本大震災、熊本地震、大阪北部地震を経験。

※所属などは取材時(2024年3月)のもの
座談会 教職員だからできる被災地支援のかたち

災害時の避難拠点としての
役割も求められる学校現場

 1月5日に先遣隊として現地のニーズを把握するために被災地に入りました。県庁や市役所などに赴いてEARTHを知って、支援要請をしてもらうというのがミッションでした。3日間で石川県庁などを訪れ、EARTHの活動や要請方法について説明しました。
 まだ道路の復興が進んでおらず、被害が甚大であった珠洲市へは金沢から車で7時間もかかりました。学校現場では教職員は避難所のサポートと新学期の準備に追われているような状況でした。現場は混乱していましたが、同じ教職員という立場から求められる支援をスムーズに把握できたのではないかと思います。

 支援は3カ月に渡って第1次派遣から第7次派遣まで続きました(3月末現在、第9次派遣までを完了)。私が派遣された1月下旬には、すでに集団避難が始まっていました。金沢や岐阜に避難した子どもたちはオンラインで授業を受けており、教室にクラスメイトが揃わないという日々が続いていました。また、県外に転出する子どもや離職する教職員も出てきており、学校では「別れ」が当たり前になっていました。別れにあまりにも慣れてしまった状況に、子どもたちの日常が一変したことを実感し、見ていてとても不安に感じました。
 現場での課題としては、避難所が閉鎖された後の学校の整理整頓や掃除などの手が全く足りていないこと、また、仮設住宅が校庭に建ち始め、復興が進むにつれて子どもたちの活動の場が失われていくというジレンマも見られました。「災害が起こると学校現場に皺寄せが来る」ということを実感しました。

子どもや教職員の本音に
寄り添ったケアが大切

 現地の教職員によると、震災から2カ月ほど経った頃から子どもたちのトラブルが増えてきたそうです。混乱の中で最初は自らのストレスに気づかず過ごしていても、落ち着いた頃に心に影響が出ることはよくあることです。EARTH員たちは、子どもたちができるだけ不安な気持ちを溜めずに過ごしていけるよう、通学の見守り時など日常の中で声かけを行い、子どもたちの心の声に耳を傾けることを心がけていました。
 ある時には「フルーツバスケット」という遊びの中で「地震で家がつぶれた人!」という声が聞こえたり、「なんで地面が動くんだよ!」と低学年の子どもが突然大きな声を出したりする場面もありました。現実を受け入れたり受け入れられなかったり。子どもたちなりに複雑な思いで災害を受け止めているのだと思います。

 高学年にとっては、進路も気になるところです。避難していった友だちはどこの中学に入学するのか。子どもなりに聞きづらい空気があったようです。久しぶりに通学路で会った友だちに「どこの中学に行くの?」と聞いて、地元の学校名が返ってきた瞬間に、その子の顔が和らいだのが印象的でした。

 震災の影響で赤ちゃん返りのような状態になり、付き添いが必要な子どものケアを行いました。一緒にお絵描きをしたりおもちゃで遊んだり。その子のペースでゆっくりと過ごし、徐々に教室に戻しましたが、そのような時間もその子にとっては必要だったのだと思います。現場の教職員には時間的な余裕がないので、外部支援者が担うべきところだと感じました。
 被災地の子どもたちの心は複雑です。私たちEARTHは、子どもたちの日常に寄り添っているからこそ出る本音を受け止めることが大切です。災害後の子どもたちの心のケアは継続的に行っていく必要があると改めて感じます。

 子どもたちの心のケアはもちろんですが、被災地の教職員の心のケアも重要です。被災地の学校には、自らも被災し、避難所に寝泊まりしている教職員が多くいます。また、家族を地域に避難させて自分は被災地に残り、二拠点を行き来するという多忙な生活を続けている教職員もいます。子どもたちの前では気が張っているので元気にふるまっていますが、いつ終わるか先の見えない辛さを抱えています。その負担は大きく、被災地の教職員の心の状態にも配慮する必要性を感じています。

教職員が全国レベルで
支援し合える体制を

 教育現場は常に人材不足ですが、災害時となると現場の教職員だけではどうしようもない状況に陥るということを今回の地震で実感しました。
 日本にはEARTHのような災害・学校支援団体を有する県が5つあります。定年退職した教職員にも協力していただいて、全国にEARTHのようなとりくみを展開し、近隣の地域で災害が発生した際、すぐに派遣できる体制を全国レベルで整えておく必要があると思います。

 日本では学校が避難所になることが多く、災害時には学校教育に皺寄せがいく現状も改善されるべきです。海外では学校を避難所に使わずホテルなどを活用する事例もあるので、さまざまな事例を参考に、今後検討していく必要があると思います。
 また、未災地域では被災した子どもが転入して来た際の「受け入れ教育」についても、認識しておく必要があると思います。

災害と心のケア Q&A

監修/冨永良喜(兵庫教育大学名誉教授)

ここでご紹介するのは寄せられたご相談の一部です。特設ページでは他にも様々な情報をご紹介しています。

子どもが「地震ごっこ」をしたり、地震の絵を描いたりする時、どう対応すればいいでしょうか。

 災害体験のショックから少し落ち着いてくると、幼い子どもは地震ごっこを始めることがあります。「トラウマ」(※)からの回復過程でも起こる自然な反応の一つなので、その遊び自体が危険なやり方でなければ、止めないで見守って、「わー、揺れてるね、怖かったね」などと声をかけたりするといいでしょう。
 ただし、地震遊びを繰り返し行い続けるようであれば、「がんばって遊んだね、ちょっと休憩しようか」と、膝の上に抱きかかえるなどスキンシップをはかり、呼吸法やリラックス法などのリラクセーションを一緒に行い、だんだん、自分自身でもリラックス体験ができるように促していくとよいでしょう。そうすることで「トラウマ体験」を過去に起きた怖い体験として受け止めることができるようになります。

子どもが「テレビが怖い」と言ってさけるようになりました。

 テレビのニュース映像などが、「トラウマ」の「トリガー」(※)になっていることが考えられます。見聞きした場合に「フラッシュバック」(※)が起こり得ることを知っておきましょう。トラウマの体験の直後には、「トリガー」(TVの災害報道など)を避けることは対処になります。
 ただし、長期的には災害の話を避け続けることは根本的な解決にはなりません。「フラッシュバック」は回復の過程でも起こることだからです。「トラウマ体験」に関連した人やもの、場所を避け続けると、むしろ心にネガティブな影響が出てきます。まずは、子どもたちに被災後には身体や心の変調は誰にでも起こる当たり前の反応であることを教えます。「ドキドキして、泣きそうになっても心配ないよ」と話し、安心させましょう。「トラウマ」は正しいケアで回復します。対処法を学びましょう。

地震後、子どもたちの寝つきが悪くなりました。なかなか寝ようとしません。

 災害後は、子ども、おとなに関わらず、「眠れない」ことがよく起こります。人や動物は、危機に直面すると、命を守るために心拍を速めるなど、生理的興奮の度合いが高まります。過酷な状況がある程度緩和しても、その生理的興奮が静まらないのです。体が常に緊張している状態です。この状態を「過覚醒」と呼びます。そんな時は、マッサージや体のもみほぐし、リラックス法が有効です。マッサージとまでいかなくても「肩をたたいてもらう」「肩に手を置いてもらう」「疲れている体の部位に手を置いてもらう」といった「してもらう」体験だけで身体や心が少し楽になります。
 一方、リラクセーションは、「してもらう」から「自分でゆるめる・自分で動かす」体験です。簡単な呼吸法や遊びの中でリラックスする方法などを身につけておくと、寝つけないときの助けになります。

被災した地域ではないのですが、子どもの様子がおかしいです。被災地関係のニュースを気にしていて、「あの人はどうなったのか?」と聞いてきます。

 災害や事故の報道をみて、胸が苦しくなったり、そのことを長い期間気にしたりする様子が子どもに見られる場合は、「共感ストレス」を受けている可能性があります。つらい状況にある人に共感しながらも自分が何もできないことに無力感を感じ、元気をなくしていくのです。また、同じ内容を見聞きしても関心を示さない人や共感しない人に対して怒りを感じ、それがケンカにつながる場合もあるでしょう。
 こうした反応を専門的には「二次的外傷性ストレス」、通称「共感ストレス」といいます。子どもたちの優しい気持ちを活かすためにもストレス対処法を身につけるとよいでしょう。また、無力感を感じる時は、「今の自分に出来ることと出来ないこと」を分けて書き出し、整理することで冷静になれます。その上で、自分たちにできる支援について家庭内や学校で話し合うのもよいでしょう。

(※)生死に関わるような出来事があった際に心に残る傷を「トラウマ」、そのもとになった出来事を「トラウマ体験」と呼ぶ。トラウマ体験をした人は、その時に見た景色や音、においなどが「トリガー」(きっかけとなる刺激)となり、トラウマを受けた時の情景や感情を鮮明に再体験する「フラッシュバック」という症状を引き起こすことがある。

マンガ動画で学ぶ「ストレス対処法

出典:こころの健康サポート部(一般社団法人社会応援ネットワーク)

こころも体もリラックス!
「10秒呼吸法」

「1」「2」「3」で鼻から息を吸い、「4」で止め、「5」〜「10」で口からはきだす。腹式呼吸を積極的に活用し、心身の健康の回復や維持に役立てる呼吸法。

※外部サイト(youtube)へリンクします。


身体をゆるめるリラックス法
(漸進性弛緩法)

手首、足首、背中、腰の各部位に緊張と弛緩を繰り返しながら、緊張状態の筋肉をほぐして心身をリフレッシュするためのリラクセーション方法。

※外部サイト(youtube)へリンクします。


肩を使ったリラックス法
(動作法)

肩を上げ下げしたり開いたりすることで、肩や背中の緊張状態をほぐして心身をリフレッシュするためのリラクセーション方法。

※外部サイト(youtube)へリンクします。


ガンバのトラウマチャレンジ

災害や暴力や事故など、自分や周りの人の命に関わるような出来事があった時に心の中にできる傷、「トラウマ」の仕組みと基本的な対処法を解説。

※外部サイト(youtube)へリンクします。

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