2022年12月、「令和4年度教育委員会における学校の働き方改革のための取組状況調査」の結果が公表されました。
調査結果から、教職員の多忙化解消に向けたとりくみの成果が徐々に表れている一方で、自治体や学校間でのとりくみ状況に差が生じていることも指摘されています。
そこで今号では、「学校における働き方改革」をより一層後押しすべく、自治体や学校レベルでとりくまれている事例などを紹介します。
「教育委員会における学校の働き方改革のための取組状況調査」は、全国1794の教育委員会を対象に実施されています。各教育委員会や学校における働き方改革の進捗状況を明確にし、事例などを共有することで、働き方改革のとりくみを促すことを目的としています。
2022年度の調査結果によると、ガイドラインで上限とされる「時間外勤務月45時間」を下回る割合は、小学校63.2%、中学校46.3%、高等学校63.4%、特別支援学校82.3%となっています。19年との比較では、各校種ともに約1割増加しています。その一方で、21年との比較では、小中特別支援学校については2%以下の微増、高等学校においては0.4%の減少と停滞傾向にあります。
文部科学省の取りまとめた報告書では、当該調査の継続によって、各とりくみのフォローアップや様々な事例を引き続き共有し、教育委員会や各学校における「働き方改革」の自走サイクルの構築を図っていくとの方針が示されています。
室蘭市立旭ヶ丘小学校では、同学年の担任同士で一部の授業を交換することで業務改善につなげるとりくみを行っています。実験器具や資料の準備に時間のかかる理科や社会、教室移動を伴う音楽や家庭などを対象に実施しています。
このとりくみによって、「授業準備が必要な科目数の削減」、「教材研究の時間の充実」、「授業準備にかける時間の短縮」が可能となりました。例えば、1組担任が音楽と家庭、2組担任が理科、3組担任が社会を受け持つことで、3組担任は理科や音楽、家庭の教材研究の必要がなくなり、その時間を他の業務に充てることができるようになりました(図表2)。
「各教員の得意な分野を生かし、授業や教材研究をより充実させるにはどうすればよいかを考えた」ととりくみにあたっての思いを語るのは校長の清水卓さん。担任だけではなく、学年全体の複数の教員で対応することで、「それぞれの子どもの良かったところや課題、学びの状況について多様な視点で見られるようになった」と、副次的な効果もあったそうです。
20年度に5年生の3クラスから試験的導入し、21年度からは3年生以上の全学年において実施するなど、とりくみを拡げています。
茨城県守谷市の小中学校では、教育課程編成上の工夫による「週3日の5時間制」(図表3、4)を導入しています。下校時間を早めることで、教職員の授業準備や研修などに充てられる放課後の時間は週あたり2時間15分増加(図表5)、早期退勤できる環境整備にもつながっています。とりくみにあたっては、夏季休業の短縮や二期制の導入、始業日や終業日、県民の日や創立記念日に授業を行うことで、必要な授業時数を確保しています。
守谷市教育委員会参事の古橋雅文さんは、「学校が抱える課題が複雑化・困難化する中で、児童生徒の学びの質の保証と、教職員の長時間勤務の改善を両輪で捉えることを念頭にとりくみを進めてきました」と導入の背景を語ります。中学校においては、部活動指導と教職員の長時間勤務の関連がたびたび指摘されていますが、守谷市では週3日の5時間授業日に部活動を実施することで、部活動の時間を確保しつつ、早期下校を両立しています。
とりくみを受けて、教職員からは「退勤時刻が早くなったことに加えて、子どもたちと話せる時間や教材研究の時間が確保できるようになった」、「ICT端末の活用に関する校内研修を実施することができた」との声が寄せられています。
文部科学省初等中等教育局
財務課長
村尾 崇さん
文部科学省では毎年、「学校の働き方改革」のとりくみに関する調査(※1)を実施しています。22年度の調査結果によると、過年度から着実に改善傾向が見られる一方で、自治体や学校間でとりくみ状況に差が生じている実態も見受けられます。
働き方改革を実現する近道は、たくさんの小さなとりくみを積み重ねること以外にありません。地域や学校規模が変われば、求められるとりくみの内容も変化します。保護者や地域から協力を得るために「共感してもらう」ことも大切です。デジタルを活用した資料配布や連絡による利便性向上など、働き方改革は保護者にとってもメリットが大きいことをていねいに説明しながら、改革を加速していかなければなりません。
学校では様々な立場の人が働いていて、働き方改革への関わり方も人それぞれです。教師の方々には、ICT活用による授業準備や教材の共有化など、各自の立場でできるとりくみに努めていただきたいと考えています。管理職の方々には、どの施策を優先して進めるかといった全体のマネジメントを行っていただき、事務職員の方々には、総務および財務の専門家として、学校現場を支えていただきたいと思います。
働き方改革を成功させるには、国・地方公共団体・学校が連携し、様々なとりくみを一体となって進めていく必要があり、学校現場でのとりくみも重要です。私たちも「小学校における35人学級の計画的整備や高学年教科担任制の推進等の教職員定数の改善」、「教員業務支援員等の支援スタッフの配置支援」、「校務効率化のためのデジタル化の推進」といった環境整備を進めており、引き続き全力でとりくんでまいります。
また、全国の学校現場でとりくみを進めていただけるよう、どの学校でもとりくみやすい事例を多数紹介している事例集(※2)を、文部科学省ホームページで公表しています(23年3月改訂)。ゼロからICT活用にとりくんで成果を上げた事例や、事務職員の方々が積極的に働き方改革にとりくんだ事例などのほか、自校のとりくみ状況を把握し、更なる業務改善を進めていただくためのチェックシートを掲載するなど、より使いやすい内容になるように工夫しましたので、ぜひご活用ください。
※1 教育委員会における学校の働き方改革のための取組状況調査
※2 全国の学校における働き方改革事例集
小学校教諭
石井志歩さん(27)
大学を卒業後、2019年から正規教員として神奈川県の秦野市立南小学校に勤務。全校児童約1200人の大規模校で、多様な子どもたちと関わりながら日々奮闘中。
子どもが好きで、生涯を通じて関われる仕事に就きたいと小学校の教員を志しました。正規教員として採用されて5年目になりますが、先輩方のサポートのおかげで、これまでやりがいをもって務めることができています。
各学年5〜6クラスで教職員数も多いため、ベテランから年齢の近い先輩まで幅広い同僚がいます。若手のうちに、様々な指導方法や子どもの反応にふれることができたのは、大規模校の魅力の一つだと思います。
教員になって感じたのは、「先生って子どもたちに見えないところで、こんなに頑張っていたんだ!」ということ。テストの採点や報告書の作成など、事務作業の多さには驚きました。最近、採用数は増えていますが、新任教員が困っていても、周りの教職員に余裕がなく、十分な支援体制が取れないケースもあると聞きます。必要なところに必要な人材が配置されることを切に願います。
教員の仕事は、時には大変だと感じることがあったとしても、それを上回る魅力があります。それは、子どもの成長を一番近くで感じられることです。
「えー、めんどくさい!」。何かと大きな声でネガティブな発言をする子どもがいました。「周りの雰囲気が悪くなるから言い方を考えようね」と、何度か声かけをしました。ある日、授業中に別の子どもが「無理!できない!」と叫んだ時、「大丈夫!できるよ!」と励ましたのは、その子だったんです。
教員の思いが届いた時、子どもは驚くほど主体的に動いてくれるようになります。「先生、あれやっといたよ。次はこれやるんでしょ?」。教員になって本当に良かったと心から思える瞬間です。
学校には様々な事情を抱えている子どもがいます。教員は、そんな多様な子どもの思いに寄り添い、自らも成長しながら共に過ごせる、素敵な職業だと思っています。