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オンライン座談会 教職員、教職志望学生で語り合う子どもにより良い教育環境とは?

 2022年8月、文部科学省は「令和5年度概算要求」を発表しました(図表1)。
 とりわけ教職員から注目されているのは、働き方改革や教員不足解消につながる予算の計上です。
 主なものとしては、教員業務支援員や部活動支援員など、多様な支援スタッフの増員を促進するための施策が掲げられました。
 今、学校現場でリアルに求められている改革とは何でしょうか?
 教職員と教職志望の学生に本音で語ってもらいました。

図表1 「令和5年度文部科学省 概算要求」の主な内容
出典:文部科学省「令和5年度概算要求のポイント」を元に編集部作成 ※( )内は前年予算比 
  • 東北地方・小学校教諭

    教務主任を務め、支援学級の経験もある中堅教員。教科担任制を試行するなど働き方改革に対する意識を持って勤務している。

  • 九州地方・中学校教諭

    部活が盛んな学校の英語教員で学級担任も務める。子育て中で配偶者は単身赴任中。仕事と家庭生活の両立を切実な問題として日々考える。

  • 関東地方・小学校事務職員

    42年間、事務職員一筋の大ベテラン。教育委員会と連携し、自分たちにできる範囲から着手する働き方改革を提案している。

  • 近畿地方・教職志望大学生

    来春大学卒業予定で、教員採用試験に合格。高校の英語教員を志す。教職員の労働環境の整備などをうったえる学生団体にも所属している。

 ─まず、ここ数年の働き方改革の進捗に関して、現場での実感をお話しください。

在籍している小学校は県の研究指定を受けていることもあって、若手の教員を中心に20時くらいまで学校にいるのは日常的でした。教頭にいたっては日付が変わるまで仕事をしていることもあったようです。それでも少しずつ働き方を変えようとする機運が高まってきて、まず行事の削減や見直しをしました。例えば運動会は半日開催にしました。また、全校集会はオンラインでの実施が多くなり、移動がなくなった分、時間を削減できました。

私の中学校でも集会はオンライン化され、ようやく二学期制も導入されました。ただ部活動が盛んなこともあって、勤務状況が大きく変わるまでには至っていません。7時からの朝練は当たり前。部活に打ち込んできた教員は、地域移行の動きに否定的です。クラス対抗のリレーや合唱コンクールの前にも朝練をする校風で、その中で私のクラスだけやらないというのも難しいですね。

校長の意見一つで合唱コンクールや体育祭の朝練をしなくなった学校があります。その一方、「これじゃあ大会に出ても意味がないよ」という意見もあって、問題は複雑だなとつくづく思います。現場で全員の意見をまとめるのは困難だとしたら、それはもう地域の教育委員会が決めたガイドラインに沿ってやっていくしかありませんよ。

僕はバスケットボールをずっとやってきましたから、教員になって部活を任せられるなら、やはりバスケを教えてみたいです。スポーツが強い学校だと、それがその学校の価値の一つだと思いますし。ただ、合唱コンクールの朝練などは、アルバイトで塾講師をしていた時、子どもたちが勉強との両立でしんどい思いをしているのを知りました。先生方の熱量とは、いま一つバランスが取れていないように感じます。

私は運動が苦手ですが、初任で陸上部を任せられ、子どもたちの頑張りを見ているうちに自分の心が開いていくのを感じました。だから、それは無駄な時間ではなかったのですが、もっと選択の幅が広がればいいと思うのです。部活をやりたい教員、教科指導に専念したい教員、それぞれの個性を発揮できる学校です。
 今、高い志を持って入ってこられた教職員が休職されるケースが増えているように感じます(図表2)。自分も現場にいてすごく心が痛みますし、他人事ではありません。だから、その人がやりたいことをやれる労働環境があると一番良いのにと思っています。

図表2 教職員の精神疾患による病気休職者数の推移
出典:文部科学省「公立学校教職員の人事行政状況調査」(平成28年度〜令和2年度)

教務主任として教育実習生を指導した経験がありますが、私は実習生がやりたいと思ったものは尊重するスタンスをとりました。若い人の感性は大事ですし、子どものことを思う気持ちは共通していますからね。

働き方改革を進めるには教職員定数の改善が必要

 ─教員不足の問題についてはどう感じていますか?

第一に産休、育休、病休の補充者はまったく足りません。「予算はあります。人がいないんです」というのが地元の教育委員会の回答でした。教員不足は教職志望の学生さんがどれだけいるかということにも関わってくるでしょうし、原因が複雑に絡みすぎていて、どこから改革していったらよいのかわかりません。

最近、教員採用の試験を受けた僕としては、「これだけ大勢の受験者がいるのに、教員が足りないってどういうこと?」というのが正直な印象です。教員免許を持っている方はいるけども、教員にはならない。それならば、教職員の定数を増やせば、働く環境が変わり、志望者も増えるかもしれません。そこに予算を注ぎ込めることができさえすれば。これは理想論かもしれませんが、授業はチームティーチングみたいな2人体制でいいと思うんです。

英語を教えていますが、クラスにはアルファベットを覚えていない子と英検準2級のレベルの子がいて、それに対して一人で授業をしなくてはいけないことにいつも葛藤を感じています。例えば再任用の方や教員免許を持っている方に、週1〜2回でも支援してもらう環境作りはできないものでしょうか。個別最適な学びという点でも、子どもたちにとっては良い方向性だと思うのです。

男女とも育児休業を取るのが当たり前の時代にと言われても、男性が取得する時にも代替の配置がないと学校は厳しいです。誰かが休みを取れば教務主任が授業に入り、それでも足りないときは副校長が授業に入るのが学校の現状です。だから、全体の定員数を上げることがすごく大事。そうしないと授業中は職員室に誰もいなくなりますからね。

小学校でも学年に1人、フリーな教員がいるのが理想です。とりわけ特別支援学級は、本当にぎりぎりの状態でやっていますしね。養護教員や事務職員は専門的な知識や技術が求められるところもあると思うので、そこは誰でもいいというわけではないと思うのですが、とにかく1人休んだら、すぐに1人が代替として入る体制づくりが急がれます。

令和5年度の概算要求では、教員業務支援員など、支援スタッフの倍増(図表3)がうたわれていますが、そういった施策がすごく大事だと思います。
 ただ、事務職員の立場からすると、その人たちの給料の支払い事務に関して普通のラインではない仕事が一つひとつ増えていきます。根本的に学校の働き方改革を進めるならば、まずは教職員定数を増やし、併せて事務職員の加配も考慮してもらいたいですね。

図表3 学校への多様な支援スタッフの配置
出典:文部科学省「令和5年度概算要求のポイント」を元に編集部作成

教職員が主体的に学べる多彩な内容の研修制度を

 ─小学校の教科担任制の採用、そして免許更新制の廃止についてはいかがでしょう?

高学年を担当している時に、教科担任制を試したことがあります。同学年の担任同士で授業を交換したり、教務主任に入ってもらったりして、うまく回れば負担がすごく減ると思ったのですが、教科時数の微妙な差があって、組み合わせの難しさがありました。例えば、5年生は社会科が100時間、理科が105時間なのですが、そういう課題も専科指導の加配があれば、工夫しやすくなります。担任のコマ数も軽減され、学年としての一体感を生む効果も期待できるので、導入は大変歓迎できることだと思います。

免許更新制ですが、実は私、廃止直前に更新したんです。ちょっと損した気持ちもありますが、学び直しという意味では、良い時間だったと捉えています。今後は、自分の受講したい研修に参加し、そこで新しいものを吸収することは、子どもたちの学力保障にもつながると思います。

賛成です。多彩なカテゴリーがあって、学びたいものがオンデマンドで選べる研修制度なら、なお魅力的ですね。

私は免許更新の時に特別支援の講座を受けました。更新≠ニいう義務ではなく、自分をブラッシュアップできる研修制度が構築されたら、子どもたちの学びに貢献できる人材育成につながっていくでしょうね。

私から二つ提案させてください。一つは学校納入金についてです。給食費に関しては公会計化が全国的に進み、複数の金融機関から引き落としができるシステムを導入している市もありますが、給食費以外は限られた自治体だけです。例えば、学校が業者に委託してオンライン決済ができるようになれば、教職員も保護者も負担軽減になると思います。そのための予算は絶対に必要です。耐震対策やトイレの改修と同じで、国が予算付けしてくれて、これに使いなさいと強く言ってもらいたいです。
 もう一つ。教員の勤務体制を2交代制にしてみたらどうでしょう? 部活を頑張りたい教員は11〜19時で勤務する、子育て中の教員や家族の介護がある教員は夕方早く帰るというような体制です。中学校は教科担任制だから、学年を超えた授業を組むことによって可能ではないかな、と。

思わず拍手してしまいました。素晴らしいアイデアですね。しかもそれは、社会の進んだモデルとして、子どもたちに見せてあげたい働き方です。もしそういう時代になったら、教職員にもかなりゆとりができますし、そのゆとりは子どもたちに必ずや良い影響をもたらすでしょう。

教職という仕事への
社会的なリスペクトを

慶應義塾大学教授
佐久間亜紀 さん
佐久間亜紀さん

 近年、公立学校における「教員不足」の現状が報じられています。これは様々な要因から成っていて、簡単に解決できる問題ではありません。病休や産育休の取得者数の状況によっても不足時期が変わり、都市部と過疎地などとでは取れる対策も異なります。いつ、どこで、どの校種・教科での不足なのかなど、現状を正確に把握した上での対応が必要です。
 働き方改革も同様です。校種や各学校によって実情が異なります。令和5年度概算要求では、教員業務支援員や部活動指導員、スクールカウンセラーなど、学校業務を支える多様な人材配置のための予算が要求されています。「予算はあるが人が見つからない」とならないように、計画的に活用されることを望みます。
 さらに深刻な教員不足がアメリカで起こっています。テキサス州では、教員不足を理由に、22年8月の新学期から週4日制に移行。フロリダ州では、学士号も教員免許も持たない退役軍人を教壇に立たせる措置が取られています。
 背景にあるのは、感染症禍での影響です。20年度の一年間は、オンライン授業が中心となり、対面授業にはない難しい対応を迫られました。しかし、それに見合った報酬はなく、保護者からのバッシングも相次いだことが要因だと分析しています。米メディアによると、28万人超の教員が離職したといわれています。
 今後、日本が同じ轍を踏まないためにも、社会全体で教職という職業の大切さ、大変さを共有し、リスペクトしていくべきです。いつ、どこでどんな問題が起きているのか、教育現場の実情を把握し、必要なところに必要な予算を分配し、人材を配置する。そして、それがしっかりと活用されているか、注視していく必要があると思います。

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