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今こそ、みんなで考えよう!「ゆきとどいた教育」とは?

 2021年8月、文部科学省は「令和4年度概算要求」を発表しました。
 今、学校現場は、感染症対策をしながらの学校運営という変革の時にあります。
 概算要求には、少人数学級の推進をはじめとする人員確保や感染症対策のための予算などが盛り込まれています。
 これを受けて、編集部では、現職の教職員や保護者に対して、教育現場や子どもの実情について取材を実施。
 今号の特集では、生の声や様々な調査結果などを交えながら、「ゆきとどいた教育」とは何かを探っていきます。

1 さらなる少人数学級の推進を

 2021年3月、国会で公立小学校の学級編制の標準を35人に引き下げる「公立義務教育諸学校の学級編制及び教職員定数の標準に関する法律の一部を改正する法律案」が成立しました。これにより、11年から35人学級となっている小学1年に続き、25年まで5年をかけて段階的に標準を引き下げます。小学校全体での編制標準の引き下げは、約40年ぶりです。
 38の先進国が加盟するOECD(経済協力開発機構)の調査結果では、日本の1クラスあたりの児童生徒数は、小学校、中学校ともに各国平均を大きく上回っています(グラフ1)。今回の引き下げを受けて、国際標準に近づくことが期待されます。
 保護者や教職員からは、感染症対策や教職員の多忙化解消などへの期待から、歓迎の声が上がっています(図表1)。今後、国は中学校での実施について、小学校での35人学級の教育効果を実証的に分析・検証したうえで検討するとしています。

 現場では、少人数学級の推進への期待感は非常に大きいです。1クラスあたりの子どもの数が少ないほど、教科指導の内容が充実するのはもちろんのこと、家庭内の問題や食物アレルギーへの対応など、一人ひとりに目が届きやすく、きめ細やかな対応ができます。
 低学年から順に導入が進められていますが、生活指導をするうえでは、思春期を迎える高学年ほど、その必要性が高いと感じます。
 なお、少人数学級の実現にあたり、「きめ細かな指導体制を構築するため」と加配されていた一部を基礎定数に振り替える動きがあります。しかし、学校のマンパワーを増やすためには、基礎定数の純増で対応する必要があると思います。

小学校教諭
(神奈川県)

グラフ1 公立小中学校1クラスあたりの児童生徒数
出典:OECD, Education at a Glance 2020
図表1 少人数学級の推進を求める声

2 実情に即した人員配置を

 複雑化・困難化する教育課題に対応するため、学校には多様な人員が配置されています。概算要求では、教員の負担軽減や教育活動を支援する観点から全国規模で、教員業務支援員(スクール・サポート・スタッフ)を約2万4千人、学習指導員を約1万4千人、部活動支援員を1万1千人配置するための予算措置がなされています。
 その一方で、児童生徒の食生活や栄養、アレルギーなどに対する個別指導や食教育を行う栄養教諭の配置が十分に進んでいません。児童生徒550人規模で1人、それ以下では4校に1人との国の基準はあるものの、実際は各自治体が財政状況に応じて配置しているため、その基準を満たせていません。割合が最も高い福岡県でも、約2校に1人という状況で、県別で差も生じています(グラフ2)。学校教育で、「食育」の重要度が高まるなか、子どもの成長を食から支える存在として、栄養教諭の増員が望まれています。

 学校では、給食時の感染症リスクを避けるため、様々な配慮をしています。前を向いての黙食、給食当番だけでなく全員が食前食後に手洗いをする、パンを個包装にして袋に入ったままでかじるなど……。子どもたちは、楽しいおしゃべりも我慢して健気に頑張ってくれています。
 近年、学校の統廃合や児童生徒数の減少から、各校に配置される栄養教諭の数が削減されています。学校ごとでの調理から給食センターへの切り替えが進んだことで、その傾向は一層顕著です。栄養教諭が配置されていない学校では、食物アレルギーを持つ子どもへの対応を担任の先生が行うなど、教職員への負担増になるケースもあり、抜本的な対策を期待します。

義務教育学校
栄養教諭
(大阪府)

グラフ2 都道府県別・本務栄養教諭のいる小学校の割合
出典:学校基本調査(令和二年度)より編集部作成

3 子どもたちに安心な居場所を

 概算要求には、学校での感染症リスクを低減するため、消毒液や保健衛生用品などの設備経費なども盛り込まれました。しかし、教育現場からは、従来より養護教諭が不足しているとの声がでていました。
 多くの学校では、保健室をパーテーションで二分したり、空き教室を「第二保健室」として活用することで、発熱や体調不良を訴える子どもと、ケガをした子どもを分けて対応しています(写真)。
 しかし、全国養護教諭連絡協議会の調査によると、養護教諭が2人以上いる小中学校は全体の1割以下です(グラフ3)。これは、複数配置の基準が児童生徒数が小学校851人以上、中学校801人以上であるためで、ほとんどの学校で、一人の養護教諭が感染対策とケガをした子どもの対応をしています。この基準は01年から20年変わっていません。感染症後を見越した学校作りのために早期の改善が必要です。

 学校では子どもたちと共に感染症対策にとりくんでいます。この体験を通じて、衛生習慣を身につけたり、他者への思いやりを学んだりする機会となることを願っています。
 保健室を訪れる子どもたちへの対応では、普段と違う態度や表情の変化がないか、助けを必要としていないか、注意深く観察するよう心がけています。子どもが発するSOSのサインにいち早く気付くには、見守るおとなの目が多い方が良いです。また、当のおとなたちだって心にゆとりが無ければ、機を逃さず対応することはできません。学校がゆとりを持って子どもたちに対応するために、平常時から養護教諭を複数配置するなど、人員を増やしてもらいたいと強く要望します。

中学校
養護教諭
(神奈川県)

(上)発熱など体調を崩した人用の入り口 (中・下)けがをした人用の入り口。パーテーションで部屋を二分している
グラフ3 養護教諭が2人以上配置されている学校の割合
出典:「全国養護教諭連絡協議会基本調査」(平成30年)

4 不登校・自殺者に歯止めを

 20年の文部科学省の調査によると、小中高特別支援学校でのいじめの認知件数は5年連続で過去最多となっています。同様に小中学校における不登校児童生徒数も年々増加傾向にあります(グラフ4)。こうした状況を受けて、今概算要求では、スクールカウンセラー(SC)やスクールソーシャルワーカー(SSW)の配置拡充、勤務時間の延長などが盛り込まれました。SCは、全公立小中学校に配置し、週1回4時間勤務から8時間勤務に、SSWは全中学校区に配置し、週1回3時間勤務から週2回3時間に延長するとされています。
 厚生労働省の調査では、21年1月から7月までに自殺した児童生徒の数は暫定値で270人で、年間で過去最多の499人となった20年の同時期を29人上回っています(グラフ6)。年々増加する子どもの自殺者数に歯止めをかけるためにも、子どもの心や生活環境を把握し、対応する人員を増やす事が必要です。

グラフ4 不登校児童生徒数の推移(小・中学校)
出典:文部科学省「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」
グラフ5 スクールカウンセラーの配置割合
出典:学校保健統計調査(令和2年度)
グラフ6 児童生徒の自殺者数の推移(小・中・高校生)
出典:厚生労働省「自殺の統計:地域における自殺の基礎資料」(暫定値)
子ども応援隊からのメッセージ

激務を強いられる教職員
人員体制の拡充が不可欠

荒川元邦さん

狛江市立狛江第三小学校校長
荒川元邦さん

 急激な変化を求められるなか、子どもたちの学びを守るために、教育現場では懸命な努力が続けられています。今後も学校が子どもへの教育保障という役割を果たすためには、何より人員体制の拡充が不可欠です。
 通常の業務に加えて、消毒作業や分散登校、オンライン授業への対応などから、教職員は毎日激務を強いられています。その負担を減らすためには、やはり人員を増やしてもらうこと以外にありません。加えて、22年の概算要求でもふれられている、「少人数学級の推進」、「高学年の教科担任制導入」、「心理職の人員拡充」、「スクールサポートスタッフなど外部人材の活用」といったとりくみはとても重要です。
 一つ気がかりなことは、全国の教育現場において、その学校が属する自治体の財政基盤などによって、提供する教育の質に差が生じるケースがあることです。実際に、感染症への対応を見ても、地域や学校により状況はまちまちです。学校教育に格差ができないように、自治体間、学校間で歩調を合わせるとともに、国としても明確な方針を打ち出してもらいたいと思います。
 次年度の概算要求は、過去のものと見比べても、文部科学省の「やる気」を感じています。人員配置については、加配定数の振り替えなど根本的な解決を先延ばしにしてきた経緯があり、そこからすると大きな進歩だと思います。ぜひ実現してもらいたいです。

「教育の質」を高めるために
学校の働き方改革の進展を

宮本隆司さん

大阪市立港中学校PTA会長
宮本隆司さん

 学校行事が中止になったり、授業や部活動で様々な制約を受けたりと、子どもたちは様々なかたちで感染症の影響を受けています。子どもの成長にとって、学校で友だちとふれあうことはとても重要な体験ですが、感染症の影響でそのふれあいが妨げられています。
 私の子どもが通う中学校では修学旅行が二度にわたって延期されて、いまだに実施できていないほか、体育大会も二度の延期ののちに規模を縮小しての開催となりました。先が見通せない日々が続く中で、子どもたちは、おとな以上に大きなストレスにさらされています。私はこの状況によって、不登校やいじめの問題がさらに深刻化するのではないかと危惧しています。傷ついた子どもたちに十分な心のケアを提供するためにも、スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの配置拡充は欠かせません。子どもの命にかかわることなので、しっかりとした体制づくりが必要です。
 一方で、分散登校を実施していた当時、先生方からは「子どもたち一人ひとりの顔がよく見える」という声をよく耳にしました。教育の質を高めるために、やはり少人数学級の実現が欠かせないと強く思います。オンライン授業への対応や、教室の消毒作業などで、先生方がますます多忙な状況になっていることも問題です。これを打開するためにも、高学年での教科担任制の推進など、学校の働き方改革の進展を期待しています。

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