コロナ禍で、学校現場は大きな変革を迫られています。
そんな中、2020年9月、OECD(経済協力開発機構)から、各国の教育予算や学級規模など教育に関わるデータを比較した調査「Education at a Glance 2020」が公表されました。
今号では、最新調査の結果をもとに、教育環境や教育予算という側面から、アフターコロナの社会における学校教育のあり方について考えてみます。
近年、教育環境は大きく変化し、いじめや不登校、経済格差などをはじめ、子どもたちを取り巻く課題が多様化してきました。教職員は、その対応により多くの時間と労力を必要とし、多忙化も大きな課題となっています。
また、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、学校はこれまで以上の感染症対策を求められています。2020年9月に出された文部科学省の「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル」では、教室の机と机の間は最低1メートルの間隔をあけるよう記載されています。分散登校中は間隔をあけることができていても、通常登校になってから教室内で十分な間隔が取れていない例も少なくありません(写真)。
こうした状況を受けて、教職員が一人ひとりの子どもと向き合う時間を確保し、よりきめ細かな教育ができる、いわゆる「少人数学級」を望む声が、保護者や教職員から強まっています(図表1)。文部科学省も、2021年度の予算概算要求で、公立小中学校の少人数学級実現のための予算を、金額を明示しない「事項要求」として盛り込みました。今後、財務省と調整の上、学級編制基準の改正も視野に具体的な内容や規模が決定されます。
子どもたちの安全を守り、きめ細やかな教育を実現するためにも、予算措置と教職員の確保をはじめとした教育環境の整備が求められています。
日本の公立小中学校の1クラスあたりの児童生徒数は、小学校で27.2人、中学校で32.1人です(グラフ1)。国際的に見ても日本の学級規模はOECD加盟国平均を大きく上回り、中学校で30人を超えているのは加盟国ではコロンビアと日本のみです。教育先進国として報道され、注目を集めているオランダや北欧諸国の学級規模は、20人前後です。また、担任の他にサポートスタッフがつき、複数の目で子どもたちを見守るなど、一人ひとりと向き合うための工夫がされている例もあります。
学級規模を決定づける要因の一つとして、国が1クラスの児童・生徒数の上限を法律で定めた学級編制の標準が挙げられます。世界の学級編制基準をみると、先進国で国や州レベルでの基準がある場合は、概ね30人を下回っています(図表2)。例えば、アメリカ・テキサス州では小学校4年生までは22人を上限、ドイツ・ノルトライン=ヴェストファーレン州では、30人を上回らないように学級数が決定されます。
一方で、日本の学級編制の上限は、小学校1年生で35人、小2から中3で40人と定められています。2011年に小学校1年生が35人に引き下げられましたが、小2から中3は、1980年以来40人のまま変化がありません。
きめ細かな教育を実現するためにも、学級規模を国際標準に近づけることが求められています。
OECDの最新報告によると、日本のGDPに占める教育機関への公財政支出の割合は2.9%で、比較可能な38カ国中37位でした。加盟国平均の4.0%を大きく下回っており、同報告が毎年公表されるようになった1999年以降、日本は最下位グループが続いています。一方で、GDPに占める私費負担の割合は1.2%で、OECD平均の0.8%を上回っています(グラフ2)。
教育支出全体に対する公私負担割合でみると、日本は公費負担が71.3%です。OECD平均の83.0%を下回り、北欧をはじめとしたヨーロッパ諸国と比較して大幅に私費負担が多くなっています(グラフ3)。
これらのデータが示すように、日本の教育支出は公財政支出が不十分で、私費に依存する構造が長く続いています。貧困や格差拡大に加え、新型コロナウイルス感染拡大による影響も大きい中、教育に対する公的支出を拡充させ、経済格差が教育格差につながらないようなとりくみが求められます。
新型コロナウイルス感染拡大の影響などを受けて、少人数学級を求める声が高まっています。なぜ今、少人数学級が必要なのか、三点述べたいと思います。
一点目は、感染症に強い学校環境整備です。「三密」回避の観点から見れば、40人学級の教室は明らかに過密です。各机にアクリル板の仕切りを設けて対策しても、「声がよく聞こえない」と、立ち上がって会話してしまうなどの例もあるようです。子どもたちの安全を守るためにも、特に指導負担が重い低学年への導入は急務です。
二点目は、教職員の働き方改革推進です。小学校教員の約4割、中学校では約6割がいわゆる「過労死ライン」で働いています。コロナ禍で感染防止対策や遅れた学習のフォローなどがこれまで以上に求められ、状況はより深刻になっています。1クラスの人数を減らすことで、提出物の点検などの負担を減らし、一人ひとりの子どもと向き合う時間を確保できます。
OECD報告でも指摘されるように、日本の教育の強みは「全人的な関わりで子どもたちを支援する」ことです。この点を生かしつつ働き方改革を進めるには、学校生活の基礎単位である学級の少人数化が必要なのです。
三点目は、子どもたちのケアをきめ細やかに行うためです。コロナ禍で精神疾患が増えたり、失業者が増加したりするなど、社会全体が苦しい状況になっています。その影響は子どもたちにも及んでいます。
海外では、福祉の専門機関が対応する事例でも、日本では支援の中心的役割を学校が求められています。福祉的役割も学校に求められる中、子どもたち一人ひとりにより支援が行き届く環境整備が必要です。スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーなど専門スタッフの定数化とともに、最も身近で子どもたちを見守る教職員を増やすことが重要です。
教育の効果を測る視点は国際的にも多様で、「学力」を含めた総合的な評価が求められています。例えば、日本の子どもたちはPISAでは比較的上位にいます。一方で、自己肯定感や幸福度、他者を助けた経験など、いわゆる「非認知能力」に関する調査結果は、諸外国と比べ明らかに低いのです(グラフ4)。少人数学級に関する最新の研究では、小学校で不登校を減少させる、家庭がしんどい子どもが多い学校で特に学力を高める、校内の人間関係にもよい影響をもつなど、その効果が多角的に明らかにされています。
そもそも、日本の学級規模は国際的に見ても大きく、例えば小学校は、OECD加盟国平均が21人に対して、日本は27.2人です。日本の教育の強みを生かしつつも、国際標準に近づける努力は必要ではないでしょうか。
新型コロナウイルスの感染拡大は、各地の研究大会が中止になるなど、PTA活動にも大きな影響を与えました。そんな中、前向きに捉えたいのはオンラインの活用が進んだことです。これまでは平日の日中や放課後に学校で行っていた会議を、仕事や家事が一段落する夜の時間帯にオンラインで実施するケースが増えています。共働きで、これまで日中の時間がとれずに参加できなかった家庭も参加しやすくなり、かえって交流が進んだ学校もあります。そういう意味では、活動のあり方を考え直すきっかけにもなった、まさにPTA改革の年とも言えるのではないかと思っています。
学校に関しては多くの保護者から「密にならざるを得ない学校環境の解消を具体的に早くしてもらいたい」との声が寄せられています。現状の教室内の人数や教職員数では、衛生管理が行き届かないのではないか、との心配があるようです。
一方で、元より多忙化問題を抱える教職員のみなさんは、椅子や机、校内の消毒作業など、新たな業務が加わり、状況は悪化しているように思います。
私たちPTAが常に望むのは、子どもが安心して学べる環境です。今、子どもたち一人ひとりに教職員の支援が行き届く、少人数学級の実現に向けた期待の声が高まっていると感じます。