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データで読み解く 日本と海外、教育現場の違い

 2019年、OECD(経済協力開発機構)から、「国際教員指導環境調査(TALIS2018)」、「Education at a Glance 2019」といった教育に関わる複数の調査結果が公表されました。
 今号では、最新調査の結果をもとに、教育費支出や教育環境の現状、教職員の働き方などに焦点を当て、日本の教育現場の現状を、諸外国との比較から探っていきます。

1 OECDで3年連続最下位 日本の教育機関への公的支出

 2019年9月に発表されたOECDの報告によると、日本のGDP(国内総生産)に占める教育機関への公的支出の割合は2.9%で、比較可能な35カ国中で最も低いことが分かりました。これは、加盟国平均の4.0%を大幅に下回っています(グラフ1)。日本の教育への公的支出が最下位なのは、3年連続です。一方で、GDPに占める私費負担の割合は1.2%で、0ECD平均の0.9%を上回っています。
 教育支出全体に対する公私負担割合を見ると、日本は公費負担が71%で、0ECD平均の82.7%を下回っています(グラフ2)。特に、大学など高等教育が私費負担に大きく依存しており、公的支出の約2.5倍が私費からの支出です。
 これらのデータから、日本は教育費負担を個人や家族に求める社会構造であると言えます。貧困や格差拡大が指摘される中、公的支出の拡充が求められます。

グラフ1 教育機関に対する教育支出の対GDP比〈全教育段階〉
OECD「Education at a Glance2019」
グラフ2 教育支出の公私負担割合
OECD「Education at a Glance2019」

2 諸外国との比較で最長 日本の教員の勤務時間

 2019年6月、教員の環境、学校での指導状況などについての国際的な調査である、「国際教員指導環境調査(TALIS 2018)」の結果が公表されました。この調査は08年の初実施以降、5年に一度実施されています。今回の参加国・地域数は48で、日本は2回目の参加です。
 日本の中学校教員の1週間あたりの勤務時間は、56.0時間で、平均の38.3時間を大幅に上回り、参加国中で最長でした(グラフ3)。前回調査の53.9時間よりもさらに増加しており、多忙の解消には至っていないことが読み取れます。
 勤務時間の内訳を見ると、授業時間は18.0時間で、平均の20.3時間より短い一方で、諸外国では必ずしも教員の仕事とはされていない項目で顕著な差が見られます。部活動指導など「課外活動」は参加国平均の1.9時間に対し、約4倍の7.5時間。書類作成などの「事務業務」は、平均2.7時間に対し、約2倍の5.6時間に上っています(グラフ3)。この傾向は前回調査時から続いており、日本の教員が授業以外にも、生徒指導をはじめとして、幅広い業務を担っていることが分かります。
 教育環境面を見ると、OECDの報告で、日本の公立小中学校の1クラスあたりの児童生徒数は、小学校でOECD平均の約1.3倍の27.2人、中学校で約1.4倍の32.2人となっています(グラフ4)。国際的に見ても日本の学級規模は大きく、中学校で30人を超えているのはOECD加盟国では日本のみです。
 教職員が子どもたちと向き合う時間を確保し、きめ細かな教育を実現するためにも、学級規模を縮小することが求められています。

グラフ3 中学校教員の1週間あたりの勤務時間
OECD「TALIS2018」
グラフ4 小中学校1クラスあたりの児童生徒数
OECD「Education at a Glance 2019」

3 日本の教員が感じる 負担感や人材不足感

 TALIS調査では、中学校の校長に、自校の教育資源の不足について尋ねています。どの国においても課題はありますが、特に日本では、質の高い指導を行う上で妨げになっている要因として、「生徒と過ごす時間の不足」を挙げた割合が、参加国平均の約2倍である49.1%にも上りました(グラフ5)。教員の業務量の多さや勤務時間の長さによって、子どもたちと向き合う時間が十分に取れていない実態があります。
 また、「特別な支援を要する生徒への指導能力を持つ教員の不足」(43.6%)、「支援職員(サポートスタッフ)の不足」(46.3%)なども平均を上回る割合です。子どもたちの抱える課題が多様化する中、専門的スキルを持つ教員の育成や多忙な教員を支えるサポートスタッフの配置が十分ではないことがうかがえます。
 一方で、教員としての資質を磨くための職能開発(研修)にかける時間は、1週間で0.6時間と平均の3割程度にとどまっています(グラフ3)。研修参加の障壁として、「仕事のスケジュールと合わない」を挙げた教員が87%にも上っており、多忙によって、教員としての学びが阻害されている実態が浮き彫りになっています。また、「雇用者からの支援不足」や「研修費用が高すぎる」などの理由を挙げた教員の割合も平均を上回っています(グラフ6)。
 例えばオランダでは、教員一人ひとりに年間研修費が支給され、自らの関心や課題に沿って研修を受けたり、教育サポートセンターでアドバイスを受けたりできます。こうした事例を参考に、研修費の公的負担拡充など支援体制を整備し、教職員が自ら学び続けられる環境を整えることが求められます。

グラフ5 教育資源の不足感
OECD「TALIS2018」
グラフ6 職能開発(研修)への参加の障壁
OECD「TALIS2018」

学校衛生委員会を
立ち上げ学校改革

 最新のTALIS調査の結果から、日本の教員の長時間労働の実態が再度明らかとなりました。ここでは、こうした状況を改善すべく、学校現場の改革にとりくんだ事例を紹介します。
 岩手県の小学校教諭、青野大祐さんは、現任校に学校衛生委員会を立ち上げ、学校改革を進めてきました。
 委員会を機能させ、改革を進めるポイントは四つあるといいます。
 まず一つめは、委員会を「働き方を改革する組織」として公的に機能させること。学校には、教育活動に関する議論の場はあっても、教職員の働き方や健康について議論する場は存在しませんでした。「職員会議で、『疲れるからやめよう』との議論はできないが、衛生委員会でなら、『超勤で身体を壊すのでは?』との提言ができる」。
 二つめは、実態を数値で「見える化」すること。教職員一人ひとりの時間外勤務時間を一覧にし、誰がどの程度超過勤務をしていて、要因が何なのかを具体的に議論します。年間を通じてこれを繰り返し、委員会通信を発行するなどして結果をフィードバックします。
 三つめは、「廃止削減」「整理統合」「改良進化」の3本柱で業務改善を進めること。
 青野さんは、教職員に「学校における業務改善のためのアンケート調査」を実施。挙がった改善策、要望を委員会で議論し、その結果を3本柱で次年度に改善していきました(図表)。
 四つめは、「業務改善年間計画」を立てること。
「次年度の教育活動や行事に関する大きな改革の場合、次年度計画が提案される会議で意見をしても遅い。事前に学校運営改善会議を開催し、年間を通じた改善案を作成して次年度計画を立てている」。
 成果は徐々に数字にも表れてきました。1カ月間の時間外勤務時間が40時間以内の教職員の割合は、調査開始時の2017年には約2割程度でしたが、19年には5割を超えました。
「当たり前に思っていることを変えなければ改革はできない。互いの改革を交流し合い、新しい学校を築きたい。子どもたちに『先生っていい職業だよ』と胸を張って言える、そんな学校をこれからもめざしたい」。

日本の教職の強みを
生かした予算配分を

慶應義塾大学教授
佐久間亜紀 さん

 最新のTALIS調査で、日本の教員の労働時間は参加国中最長の56時間でした。改善には、書類や会議を減らすなどの業務効率化だけでは不十分です。考えるべきは「なぜ効率化がうまくいかなかったのか」です。
 この問題を考える鍵は、日本の教員が求められている役割、つまり「教職の専門性」です。欧米がスペシャリスト型の専門性を求めるのに対して、日本では、授業も生活支援もできる、子どもを全人的に見る力があるジェネラリスト型の専門性が求められます。勤務時間が長くなるのは、アメリカの教員のように「私の担当は5年生の授業」などと職務の範囲を限定せず、幅広い職務に対応するジェネラリストの特徴です。
 一方で、OECDのシュライヒャー教育・スキル局長は、今回の結果から、日本の教員の強みは授業以外で子どもと接する機会が多く、深く関われている点だと語っています。教員が授業しかしない国もある中、全人的に子どもを見守り、成長を手助けする日本の教育が評価されているのです。
 そんな中、現在、小学校高学年の教科担任制の導入が進んでいます。これはスペシャリスト型の専門性を重視することを意味します。ただし、そもそもの日本の教育の良さである、授業以外の部分を総合的に見て、関わってくれる教員が減ってしまっては、子どもたちは安心できません。子どもと信頼関係を築いた教員が、継続的に関われる体制が必要です。
 そのためには、教職員定数の改善が不可欠です。少子化が進む中、定数は毎年自然減しますが、それを上回る人員削減は避けるべきです。さらに、産休や育休を取る教職員の増加も鑑み、定数を決定する義務標準法を見直し、余裕のある人員配置をする必要もあるのではないでしょうか。
 そもそも、今年のOECDの報告によると、日本の教育機関への公財政支出は参加国中最低でした。新自由主義の下、「教育は受益者負担」という考え方が主流のアメリカよりも低水準なのは憂慮すべき事態です。
 日本の教職の強みと良さを生かしつつ、教職員が子どもたち一人ひとりと向き合える教育環境整備のためにも、さらなる予算措置が望まれます。

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