2018年11月現在、文部科学省中央教育審議会の特別部会で、「学校における働き方改革」の議論が進められ、19年度概算要求でも関連予算が要求されています。
今号の特集では、18年9月公表の「教員勤務実態調査」確定値を中心に、教員の長時間労働の実態をデータで解説し、各自治体のとりくみ事例や専門家のコメントを紹介。
なぜ、「学校における働き方改革」が必要なのかを考えます。
月残業80時間以上の「過労死ライン相当」にあたる、「週60時間以上勤務」する教員の割合は、小学校で33.4%、中学校で57.7%。小中学校ともに1週間あたり4時間以上の持ち帰り業務時間があるが、上記の割合にはこの値を含んでいない。
教員の時間外労働時間は、教員給与などについて定めた「給特法」の制定時に参照された1966年の調査と比べて、小学校で7.5倍、中学校で6.3倍に増加。2016年度調査では、1週間あたり小学校で4.7時間、中学校で4.0時間の持ち帰り業務も発生している。
「過労死ライン相当」の割合を他業種比較すると、よく長時間労働の実態が報じられる「運輸業」や「飲食業」も教員の割合を下回っている。民間では月残業100時間を上限に罰則つきの規制がなされたが、公立学校の教員には適用されず、中学校教員の約4割が月残業100時間相当の勤務時間である。
業務内容別では、小中学校ともに平日は授業・授業準備に正規の勤務時間の6割以上の時間を割いている。休日は、小学校は授業準備、中学校は部活動の比率が高い。特に中学校の部活動は、休日1日あたり2時間9分を費やし、時間数は06年調査の約2倍で、休日勤務の約7割を占める。
日本の中学校の教員の勤務時間はOECD各国平均の約1.4倍で、調査参加国中では最長。授業時間が平均を下回る一方で、「事務業務」は2倍、部活動などの「課外活動」は4倍近くに及ぶ。欧米では、教員が部活動の顧問を担うことは少なく、地域のスポーツクラブなどと連携して実施するケースもある。
PTA研修会などで教職員の長時間労働の実態を紹介すると、多くの保護者が「これほど長い時間働いているとは想像していなかった」と驚きます。調査の結果からは、保護者対応にも多くの時間がかかっていることがうかがえます。共働き家庭の増加による勤務時間外の対応や、特別な配慮を必要とする事例などもその一因だと感じます。
教育基本法は、「父母その他の保護者は、子の教育について第一義的責任を有する」と定めています。生活上のマナーや道徳心など基礎の部分を家庭でしっかりと学び、それを学校生活に生かせるようにする。保護者は、先生方が本来担うべき仕事に集中できるよう注力するべきです。
外部人材でまかなえる業務の負担は、「スクールサポートスタッフ」などの活用で軽減できるでしょう。一方で、「授業準備が不十分」、「子どもに目が行き届いていない」と感じる教員の多くは、事務作業が削減されても、「子どものため」と際限なく働いてしまうのではと懸念しています。
先生方には、長時間労働で疲れ切った姿ではなく、健康で元気に働く姿を子どもたちに見せてもらいたいと、保護者としては思います。
近年、長時間労働の実態がメディアで報じられている影響からか、多くの自治体で教員採用試験の倍率が下がっています。志の高い多くの若者に教職をめざしてもらえるよう、教育予算を確保し十分な人材を配置するなど、教職員がイキイキと働ける環境を整えていく必要があると思います。
国の実態調査によって、教員は民間企業と比べて長時間・過重労働であると分かりました。中学校では部活動の負担が大きく、小学校では出勤してから子どもたちが下校するまで、ほとんど休憩もとれていないなどの現実も明らかになってきています。
こうした異常な長時間労働の背景には、「給特法」などの法制度上の問題とともに、社会環境の変化に伴い、学校に求められることが多様化・複雑化してきたことが挙げられます。主権者教育、プログラミング教育など、学校には「○○教育」があふれ、教員が担う仕事は増え続けています。
学校の働き方改革は、これまで教員の事務負担軽減が中心でしたが、それだけでは限界があります。学校が担う業務や行事を洗い出した上で優先順位をつけ、思い切ってやめたり、縮小したりの判断もしていかなければなりません。
例えば、掃除や昼休み、給食の時間は、担任が見るのが当たり前のようになっていますが、必ずしも付きっきりになる必要はないと思います。一部をサポートスタッフらに任せることが考えられます。また、現状で最も多忙な職である副校長・教頭には、補佐するスタッフも必要です。
部活動には教育的意義と効果はありますが、大会規模や日程のあり方を見直すなど、過熱化の抑制を図るべきです。
学校には絶え間なく新たな教育課題が持ち込まれます。とりわけ小学校教員には空きコマがありません。業務改善とともに、仕事量の増加に応じた教職員定数の改善やスタッフの導入が不可欠です。予算のかからないとりくみは進めつつも、しっかりとした予算措置が望まれます。
「働き方改革」のための予算要求をする上で主眼に置いたのは、「働き方改革」と「教育の質の向上」の両立です。
小学校の先生方は、一日平均4時間25分教壇に立ち続けています。つまり、正規の勤務時間の約6割が授業ということです。20年には外国語教育が本格的に始まります。そんな中、授業準備や教材研究の時間の確保には、授業の持ち時数を減らすことが必要だと考えています。「専科教員」を加配するなど、担任の負担が増えないように対応します。
中学校の先生方の時間外の勤務は、年間千時間を超えると推計され、その半分は部活動です。この問題を解決しないと、働き方改革は進みません。21年までに1校当たり3人、合計約3万人の「部活動指導員」の配置をめざします。
部活動は現状では学校単位での実施が多いですが、地域スポーツとの連携を、という声もあります。市町村教育委員会が主導して、実情に合った部活動のあり方を模索する必要があります。指導員を非常勤の地方公務員に位置付けることで、顧問や試合の引率も可能になり、より教員の負担軽減にもつながります。
企業経営に重要なリソースは「ヒト・モノ・カネ・情報」と言われます。加えて、学校経営にとっては、「時間」と「教育内容」も重要なリソースです。「分かりやすく、楽しい授業」の展開には、勤務時間の削減だけではなく、いかに「生きた時間」を生み出すかを考えなければなりません。
教職には専門性があります。どんなに企業などで活躍なさっている方でも、急に子どもたちの前で授業をするのは難しいでしょう。おとなと子どもとでは言葉も概念も知識も違い、発達段階によって適切な教え方も変わります。教科教育の蓄積の中で築き上げられてきた専門性が発揮しやすい職場環境を作ることが、働き方改革の大きな目的です。19年度概算要求に計上している予算は、この目的の実現に必要なものです。
19年度概算要求では、「学校における働き方改革」関連予算として、「部活動指導員」や「スクールサポートスタッフ」などの活用が盛り込まれました。ここでは、教員の負担軽減のため、これらの施策を実践している自治体や学校のとりくみを紹介します。
東京都杉並区では、区立中学校に対し「外部指導員事業」と「部活動活性化事業」で支援しています。顧問教員を指導経験に応じて3段階に分け、支援が必要な顧問の部活動にボランティアの外部指導員や区が契約する専門コーチを派遣するものです。コーチ指導時は顧問の立会が不要で、教員の負担軽減につながっています。コーチによる指導は「上達を感じられる」と生徒や保護者からも高く評価されています。
岐阜県多治見市では、03年から、学校での部活動と保護者や地域の社会人が輪番制で見守る「ジュニアクラブ」の二本立てで運営しています。平日の下校時刻までを部活動とし、それ以降と休日は地域のクラブ活動とする形で、教員の部活動指導時間の短縮を実現しています。
静岡県は18年度から、政令市を除く県内の小中学校に、学習プリントの印刷や確認などを行うスクールサポートスタッフ(SSS)を週あたり10時間配置しています。
県内には、独自予算でさらに外部人材を雇用する自治体もあります。静岡県吉田町では「校務アシスタント」を各校に2名ずつ配置し、SSSと合わせ週50時間の支援体制を確保しています。
県の多忙化解消プロジェクトのモデル校である吉田町立住吉小学校の大石憲教頭は「印刷や宿題の確認には、毎日積み上げるとかなり多くの時間を費やしている。サポートスタッフのおかげで教員の負担が減少した」と話します。
こうして生み出された時間は、時間外勤務の減少だけでなく「授業の質向上にもつながっている」と鈴木寿夫校長は話します。同校に勤務する教員からは、「これまで持ち帰り仕事だった授業準備が学校でできるようになった」「翌日に疲れを残さず授業ができるようになった」などの声が上がっています。
同校では、サポートスタッフの有効活用を促すなど、教職員の働き方改革を着実に進めるため、管理職がマネジメント業務に集中できる体制を整えています。