2017年3月、幼稚園教育要領(18年度から完全実施)と小中学校学習指導要領が、4月には特別支援学校幼稚部教育要領及び小中学部学習指導要領が、18年3月には高等学校学習指導要領が告示されました。新学習指導要領等は、小学校は20年度、中学校は21年度から完全実施、高等学校は22年度から年次進行で実施されます(図表1)。今号の特集では、主な改訂ポイントや懸念点、大学入試との関連などについて解説します。
小中学校の教科の改訂について注目されるのは、小学校での外国語科導入と道徳の教科化についてです。
小学校では、「外国語活動」が3、4年生で実施されるようになり、英語教育の開始が2年早まります。5、6年生では、これまで実施されていた「外国語活動」に代わり、教科としての「外国語科」が導入されます。授業時数だけでなく、習得をめざす語い数が増えるなど、学ぶ内容が増加し、子どもたち、教職員双方にとって負担が大きくなることが予想されます(図表2)。文部科学省は、小学校の英語専科教員を1000人増員するなど、体制整備に努めてはいますが、十分とは言えません。
次に、道徳の教科化についてです。検定教科書の使用が始まり、特定の価値観に基づく「正解」の押し付けにならないか懸念されています。教科書に縛られすぎず、多様な意見や考えを尊重できる姿勢を育む、「考える道徳」を実現することが重要です。また、道徳の評価は、「5」や「A」などの評定ではなく、個人の良いところを見とって積極的に評価する「個人内評価」に限定されており、文章で記されます。人との比較や目標準拠の評価ではなく、ポジティブフィードバックを通して、子どもたちの育ちをサポートする姿勢が大切になってきます。
教職員の多忙化が指摘される中、新学習指導要領で示された変更点を実現するためには、一人ひとりの子どもに向き合うことが不可欠です。教職員定数の改善を含めた条件整備を着実に進めることが求められます。
高等学校では、科目の新設や内容見直しが27科目にわたり行われました。国語、地理歴史、公民、外国語、家庭、情報の6教科には、いずれも新科目が含まれます。ここでは、枠組みが大きく変わる「公民」「地理歴史」、入試改革との関連で重要な「外国語」を中心に解説します。
公民と地理歴史は、これまで個別的知識の習得が中心で、それを用いて、現実社会の問題をどう解決するか、社会をどう変えていくかという姿勢を育めなかったという反省に基づいて、今回の改訂がなされました。
具体的には、公民では「公共」が必履修科目として新設されました。社会参画の主体として自立し、他者と協働してよりよい社会を形成することをめざすとしています。政治参加、職業選択など現実社会で直面するテーマについて、実生活と関連付け、体験的な活動も取り入れながら展開します。
地理歴史では、「地理総合」と「歴史総合」が必履修科目として新設されました。地理総合では、持続可能な社会づくりをめざして、現代の地理的な諸課題を考察します。歴史総合は、近現代の世界とその中の日本を相互的に捉えて学ぶ科目で、これまで個別に学んでいた日本史と世界史の近現代分野を総合的な視点で学ぶことになります。さらに、必履修科目で身に付けた知識や技能を用いて、より専門的な視野から考察を深め、探究する科目として、「地理探究」「日本史探究」「世界史探究」が設けられました。
外国語は、現行指導要領の方向性を進め、「読む」「聞く」「書く」「話す」の4技能をバランスよく育成することをめざします。これまでの「読む」「聞く」が中心だった授業に、本格的に「書く」「話す」機会を盛り込むことが求められています。生徒のアウトプット重視の授業への転換には、丁寧なフィードバックが必要です。そのためには、教員一人あたりの担当生徒数を減らすなど、生徒一人ひとりと向き合える環境づくりをしっかり進める必要があります。
大学入試も大きく変わります(図表4)。2020年度から「共通テスト」が実施され、未知の課題に対して思考・判断・表現力を用いて考える「活用型学力」が問われます(図表5)。
まず、「国語」「数学T・A」に記述式問題が導入され、試験時間も10〜20分程度延長される予定です。高校が新学習指導要領を完全実施する24年度以降は、「理科」「地理歴史」「公民」にも導入が検討されており、子どもたちの思考力のアップが期待される一方、多くの受験生の答案を短期間で正確に採点できるのか、などの課題も指摘されています。
「英語」試験としては、「4技能」を測定できる民間試験利用が始まります(23年度までは共通テストの「英語」と並行実施)。高校3年生の4〜12月に民間試験を2回まで受け、その結果を大学に提供する仕組みです。文科省は18年3月、対象試験としてビジネス英語力を測るTOEIC、留学する際に用いられるTOEFL、新たな実用英語技能検定(英検)、GTECなど8種類を認定しました。しかし、元々目的が異なる試験を同一基準で比較するのは難しいことや、家庭の経済状況によって、受験機会に不平等が生じかねないなどの懸念点もあります。