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OECD調査から読み解く日本の教育環境は?

 OECD(経済協力開発機構)は、教育に関する国際比較が可能な大規模な調査を複数実施しています。今号では、昨年11月に発表された「図表で見る教育2015年版」を中心に、教育予算や教員の働き方に焦点を当て、日本の教育環境の現状を、諸外国との比較から探っていきます。

教育予算の国際比較 各国と比べつくない日本の教育予算

  OECD(経済協力開発機構)は、加盟国を中心に世界各国の教育制度や財政、教育の効果についての調査を実施し、国際的なインジケータ(指標)として公開しています。2015年11月、「図表でみる教育2015年版」が発行されました。

 同報告書によると、日本の教育機関に対する公的支出は、国内総生産(GDP)の約3・5%となっており、OECD各国平均の約4・7%を大きく下回っています(グラフ1)。この値は、加盟国34カ国中最下位で、日本の最下位は6年連続。今回は、その中でも特に、近年ニーズが高まっている就学前教育(幼稚園・保育園等)と、高等教育(大学等)への支出について詳しく見ていきます。

グラフ1 全教育機関に対する公財政支出の対GDP比

1.就学前教育の状況

4、5歳の9割以上が幼稚園や保育園に在学

 就学前教育(幼稚園・保育園等)の在学率は、多くの国で高まっています。

 日本の就学前教育は、義務化はされていませんが、2013年には3歳児の 81%、4歳児の95%、5歳児の97%が幼稚園や保育園などに在学しています。05年から13年の8年間に、3歳児の在学率が約13%上昇するなど、ニーズの高さがうかがえます。

 在学率が高いにもかかわらず、これらの機関に対する公的支出は極めて低水準です(グラフ2)。就学前教育に占める公的支出の割合は約44%で、OECD平均の約80%を大幅に下回っており、加盟国中最低です(グラフ3)

グラフ2 就学前教育機関に対する公財政支出の対GDP比 グラフ3 就学前教育機関に対する教育支出の公私負担割合

 例えばスイスでは、最大3年間(州により異なる)の就学前教育が義務教育化されているため、私費負担はありません。ベルギーでは、義務ではないものの学費は無償で、私費は給食とおやつ費のみに限定されています。

 この10年、格差拡大を防ぎ、子どもの発達に重要な役割を担うものとして、多くの国で幼児教育プログラムが拡充されています。家庭の経済状況によって教育格差を発生させないよう、日本でも公的負担の拡充が急がれます。

高等教育の状況

「学びたくても学べない」日本の学費・奨学金事情

  日本の高等教育(大学等)への公的支出は、GDPの約0・5%でOECD平均の半分以下です。

 その結果、日本では大学等にかかる費用は私費に依存し、教育費の公的支出の割合は約3割にとどまっています(グラフ4)

グラフ4 高等教育に対する教育支出の公私負担割合

 たとえば、大学の授業料に関しては、デンマーク、ノルウェーなど、北欧では無償です。フランスやベルギーなどのヨーロッパ諸国でも比較的低額に抑えられています。一方で、日本は韓国と並び、授業料が最も高額な国のひとつとなっています。

 さらに、OECDは、各国の高等教育の実情を授業料と奨学金を軸に4つのモデルに分けて分析しています。

 この報告では、日本は「授業料が高額で、学生支援体制が未整備」な国に属すると指摘されています(図表1)。ほかの3つのモデルが、低所得であっても高等教育を受けられる条件を整えているのに対し、日本型の国では、低所得層が高等教育を受けることが極めて困難であることを意味します。

図表1 授業料と学生支援体制水準の
高低による4モデル

 日本の奨学金制度は、諸外国に比べ、公的資金による給付型の割合が極めて低く、ほぼすべてが貸与型です。返済の必要のない給付型と違い、学生のその後の生活に負担がかかる日本の「貸与型奨学金」はOECDでは「学生ローン(student loans)」と分類されています。

 近年、経済格差の教育格差への影響が指摘されています。こうした教育環境下で、大学進学の意志があっても、家庭の経済状況によって進学を諦めざるをえない子どもや、卒業後に奨学金の返済に苦しむ若者の問題なども顕在化しています。

教員の勤務の国際比較 授業外の業務に追われ最も多忙な日本の教員

 日本の小中学校教員の法定勤務時間は年間1899時間で、OECD各国平均の約1・2倍、加盟国中3番目に多い時間数です(グラフ5)。これは、週当たりに換算すると、約38・8時間。しかし、実態調査に近いTALIS調査では、日本の中学校教員の実際の勤務時間は1週間あたり53・9時間と、法定勤務時間を15時間以上超えて、調査参加国の中で最長です(図表2)

グラフ5 小中学校の教員1人あたりの法定勤務時間数(年間) 図表2 教員の勤務時間(中学校1週間)

 一方で、教員の1週間の授業時間はOECD平均19・3時間に対し、17・7時間です。日本の場合、放課後に単元の習得が遅れている子どもなどへの個別指導や補習をしたり、自分の授業がない時に応援で授業に入ったりするなど、授業時数として報告されない多くの指導もしています。

 その他に、各国との違いで顕著なのは、「課外活動」と「事務業務」です(図表2)。日本では、「課外活動」の一環として部活動顧問を教員が担っており、休日にも練習の指導や対外試合への引率をしています。「事務業務」に関しては、個人情報への配慮、様々な報告書づくりなど、ますます煩雑になっています。

 さらに、進路指導や生徒指導、校外で起きた問題への対応、家庭訪問など、業務が多岐に渡るのも日本の教員の特徴です。

 これに対して、米国、フランスなどの欧米諸国では、部活動は教員の業務ではなく、国によっては地域のスポーツクラブが担っている場合もあります。

 米国には、生徒指導を担当するカウンセラーなど多様な専門職員を配置し、教員を授業に専念させるよう取り決めている州もあります。英国・スコットランドのようにワークルールで、教員の授業以外の事務業務に制限を加えた例もあります。

 このように、教科指導が中心の欧米諸国の教員と比較して、日本の教員は、極めて幅広い業務を担っており、勤務時間が長くなっています。

 実際に、学校現場からは「きめ細やかに対応する時間的余裕がない」「教材研究や授業準備の時間が不足している」などの声があがっています。保護者や教員が望む「きめ細やかな教育体制」の実現に向けて、子どもと向き合う時間をどう確保していくのか、実態に即した制度設計が急がれます。

次世代を担う子どものため
予算・人的両面での拡充を 明星大学教育学部教授 樋口修資 さん

 21世紀の社会は、知識、情報、技術が、社会のあらゆる分野での活動の基盤としてその重要性が増す「知識基盤型社会」と言われます。そうした社会を支える人を育てる上で、教育環境の整備はどの国でも最重要課題として位置づけられていますが、日本の教育機関への公財政支出はOECD参加国中最低です。特に就学前教育と高等教育において顕著で、教育の機会均等という面から考えた時、経済状況により就学を断念するということがないよう、公的負担を拡充すべきです。

さらに教育環境の整備を考える上で注目したいのが、教員の勤務実態です。日本の教員の授業時間数はOECD平均を下回っています。これは、日本と海外の学校・教員文化の違いに起因しています。教育指導に専念するという欧米に対して、日本では、学校運営に必要な一切の業務を教員が分担しています。

 その結果、事務業務や課外活動などに時間を割かれ、長時間の超過勤務が常態化しています。担当授業時数を減らしたり、事務職員を増員したりして、教員に授業研究や教材研究を十分に行えるだけのゆとりを与え、教育指導に専念できるようにしていく。それがやがて、次世代を担う子どもたちに対するきめ細やかな教育へと繋がっていくのではないでしょうか。

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