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「就学援助制度」「高校無償制」現代の状況を踏まえた教育制度のあり方とは

 厚生労働省の最新調査によると、日本の「子どもの貧困率」は16.3%で、1990年代半ば頃から上昇傾向にあります。こうした状況を受け、国は昨年1月に「子どもの貧困対策の推進に関する法律」を施行し、8月に大綱を閣議決定。今年4月には、文部科学省、厚生労働省などが協力し、「子供の未来応援国民運動」を展開すると発表しました。

 今号では、家庭の経済状況が子どもの将来を左右しないよう、教育の機会均等を図る教育支援制度である「就学援助制度」と「高校無償制」の概要について解説します。

1.増加する日本の「子どもの貧困率」

 「子どもの貧困」と聞くと、遠い国のことだと思われがちですが、日本の「子どもの貧困率」が年々上昇していることをご存知でしょうか。貧困率とは貧困世帯に属する子どもの割合を示し、国内の所得格差を表す指標として用いられています。

 2012年の日本の子どもの貧困率は16.3%(グラフ1)。15.7%だった09年の国際比較では、OECD加盟34カ国中10番目と高い数値で、加盟国平均を上回っています(グラフ2)。特に「大人が一人の世帯の相対的貧困率」は50.8%と加盟国の中で最も高く、ひとり親家庭が特に経済的に困窮していることがわかります。

グラフ1 日本の子どもの貧困率の推移 グラフ2 各国の子どもの貧困率

 昨年施行された、「子どもの貧困対策の推進に関する法律」では、貧困の状況にある子どもが健やかに育成される環境を整備することを目標に、教育、生活、就労、経済的支援など、様々な施策を国と地方公共団体の関係機関が連携して行うことを規定しています。

 また、同法に基づいて閣議決定された、「子どもの貧困対策に関する大綱」では、特に教育支援において、就学援助、学資援助、学習支援など、貧困の状況にある子どもの教育に関する支援のために必要な施策を講じるとされています。

2.義務教育の機会均等を支える「就学援助制度」

 学校教育法では、「経済的理由によつて、就学困難と認められる学齢児童又は学齢生徒の保護者に対しては、市町村は、必要な援助を与えなければならない。」(同法第19条)とされています。

 「就学援助制度」の運用にあたっては、同法が裏付けとなっています。子どもたちが安心して学校生活を送れるよう、学用品費や修学旅行費などの必要なお金の全額または一部を、各市町村が対象となる家庭に対して支援しています。

 支援の対象となるのは、生活保護法に規定する「要保護者」に区分される家庭と、各市区町村の独自の基準によって、「要保護」に準ずる困窮度であると判断された「準要保護」に区分される家庭です。要保護家庭への援助額の一部は、国が補助しています。

 生活保護の認定を行うのは各市区町村の福祉事務所で、「就学援助」の認定を行うのは教育委員会です。就学援助の認定基準については自治体ごとに異なりますが、「生活保護受給基準の1.3倍」、「前年度以降に生活保護を受けられなくなった家庭」、「児童扶養手当を受けている家庭」などを基準としているケースが多くみられます。

 申請方法についても、自治体ごとに異なります。多くの場合は、申請書を学校で受け取り、必要事項を記入・押印の上、必要書類を添えて学校に提出することになっています。

 援助の対象費目については、自治体間で格差が生じています。文部科学省の調査によると、回答した1753自治体のうち、「学用品費」や「修学旅行費」に関しては9割以上の自治体が対象としているのに対し、「生徒会費」や「クラブ活動費」などの費目を対象とする自治体は2割程度にとどまり、8割近くの自治体で支給されていません(グラフ3)。つまり、A市では「クラブ活動費」を援助しているのに対し、B市では援助していない、ということが起こり得るわけです。

グラフ3 各自治体が支給する就学援助の対象費目

 文部科学省の調査によると、要保護および準要保護の子どもの割合は、12年現在で15.6%となっています。全国の小中学生の六人に一人が援助を受けていることになります。95年には6.1%だったことを考えると、その割合は17年間で約2.5倍に増加しています。これは、学級規模が40人の場合、一学級あたり4人近く増えた計算です(グラフ4)

グラフ4 要保護および準要保護の子どもの割合

3.高校全入時代を支える「高校無償制」

 2010年に始まった高校授業料無償制。公立高等学校などの授業料を無償とし、私立高等学校に通う生徒には就学支援金を支給することで授業料を減額していました。制度の導入後、埼玉県では高校進学率が過去最高を記録、全国的にも高等学校中退率が過去最低となりました。

 その後、13年に高等学校授業料無償制から「高等学校等就学支援金制度」に変更されました。この変更による違いは大きく2点あります(図表)

図表 高等学校授業料に関する制度

 1点目は授業料の徴収方法。旧制度では公立高校の授業料は不徴収でした。特に申請手続きは必要なく、公立高校に通う生徒であれば自動的に無償となりました。

 新制度では、原則有償となり、無償となるためには、申請が必要となりました。学校を通じて配布される申請書と、自治体の窓口で発行される課税証明書等を学校に提出し、就学支援金の受給資格を得ます。ただし、就学支援金は学校設置者が生徒本人に代わって受け取り、授業料に充てるので、生徒や保護者が直接受け取ることはありません。学校によっては、いったん授業料を全額徴収した後、支援金相当額を還付する場合もあります。

 2点目は、所得による制限が設けられたこと。新制度では、「親権者の市区町村民税所得割額が合計30万4200円以上では支援金なし」との制限が設けられ、世帯年収が910万円以上の家庭は、公立高校の場合、月額9900円の授業料納入が必要となりました。

 申請の際には、プライバシーを保護するため、申請書類を封入して提出したり、手続きが他の生徒の目に触れないよう、事務室等で行ったりするなどの工夫をしています。加えて、確実な申請のため、対象外の生徒にも「申請をしない趣旨の書類」を提出させるなど、生徒全員に意思を確認し、漏れがないように努めている自治体もあります。

専門家の視点 子どもの貧困と教育機会の不平等 跡見学園女子大学准教授  鳫(がん) 咲子氏

 憲法第26条では、「教育を受ける権利」、「保護者の子どもに教育を受けさせる義務」、「義務教育の無償」を定めています。しかし、義務教育無償の実際の内容は、公立小中学校における授業料の不徴収、小中学生の教科書無償給与のみにとどまっています。

 学校給食費、通学関係費、クラブ活動費、修学旅行費、学用品費など、義務教育を受けるために保護者が支出する経費は、公立の小学校では子ども1人当たり年間約10万円、中学校では約17万円にも上ります。「子どもの貧困率」が上昇傾向にある中、これらの経費を援助するために、生活保護制度における教育扶助や就学援助制度があるわけです。

 就学援助の財源は、2005年に国庫補助から一般財源化されました。多くの自治体では、他の市区町村との均衡、あるいは景気悪化の影響による各自治体の厳しい財政状況を理由に基準を厳しくする動きが起こりました。

 就学援助の認定基準は、世帯所得が生活保護基準の1.3倍くらいというケースが多いですが、神奈川県の横浜市や川崎市では、生活保護基準の1.0倍と、生活保護と同様のレベルです。さらに援助を受ける子どもは増えているものの、一人当たりに支給される金額も減っています。このように、自治体の判断で就学援助費の削減がなされているのです。

 13年の法改正によって、高等学校授業料に関する制度が変更されました。

 公立学校の場合、授業料は「不徴収」でしたが、改正後は、「有償」となり、「就学支援金」が支給されるようになりました。受け取りには課税証明書と申請書を提出する必要があるため、問題も生じています。

 例えば、千葉県の高等学校に通うある父子家庭の生徒は、父親が確定申告をしていなかったため、必要な書類を揃えることができず、支援金を受け取れませんでした。アルバイトをして授業料を支払っていましたが、最終的には、経済的な理由で退学しました。

 2013年5月、国連の社会権規約委員会は、授業料だけではなく、さらに入学金や教科書代も無償にすることを勧告しました。子どもたちの学習権を保障するため、主要先進国では、日本の高校に当たる後期中等教育は無償であり、所得制限も課されていないのが実情です。

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