社団法人日本PTA全国協議会会長
相川敬 氏
1953年千葉県生まれ。千葉県立安房高校卒。相川海運産業株式会社代表取締役。千葉市立小学校PTA会長、千葉市中央区PTA連合会会長を務める。現在、千葉市PTA連絡協議会会長、社団法人日本PTA全国協議会会長。豊かな教育環境づくりのために活動中。
5月21日、文部科学省にて「子ども応援便り」発行責任者の日本PTA全国協議会相川敬会長と高比良美穂編集長が、川端達夫文部科学大臣を訪問。大臣室で交わされたその熱い議論の様子を「対談特集」として、みなさんにご紹介します
公教育費の充実こそ日本の未来への投資
教材費に地域格差 最低水準の確保を
少人数学級の実現と教職員の定数の改善
子どもや教職員みんなの笑顔あふれる学校現場に
文部科学大臣
川端達夫 氏
1945年滋賀県生まれ。京都大学工学部卒、京都大学工学部大学院を修了。東レ株式会社で研究開発業務に従事。1986年衆議院議員に初当選。民主党国会対策委員長、幹事長、副代表などを歴任。2009年9月鳩山内閣、2010年6 月菅内閣で文部科学大臣に就任。
公教育費の充実こそ
日本の未来への投資
高比良
教育予算を増やし、公教育費を充実させてほしいという声が、多くの保護者から寄せられています。
相川
今は、どの家庭も家計が厳しいはずですが、保護者としては、生活は切り詰めても、教育費は抑えられない。ですから、「日本の子どもは国が責任をもって育てていく」という大臣の基本方針に、保護者の期待も高まっています。
川端
わかります。OECD各国の公教育費を見ると、対GDP比で平均約4.9%。それに対して、日本は3.3%。
一方で、親御さんたちが出す私費負担分は、OECD平均0.8%に対し、日本は1.7%となっています。ですから、保護者のみなさんの負担感が強く、そのような声があがるのは、当然のことだと思いますよ。中でも、保護者が一番負担を感じているのは、高校と大学だということが文部科学省などが実施した調査で分かりました。そこで、まずはその部分を重点的に支援しようと、いわゆる「高等学校の無償化」にとりくみました。
相川
その点に関しては、非常に感謝しております。今の日本の経済状況を考えると、経済政策優先で、「教育」に関してトーンダウンしてしまうのも分かるのですが、将来の企業経営者や政治家、技術者をつくるのは、すべて教育です。
川端
おっしゃる通りです。最近、世界中が教育投資をかなり大幅に増やしてきています。どこも経済的には厳しいはずですが・・・・・・。これは、教育投資ほど経済効果の大きい投資はないということの証だと思うのです。日本は地下資源も少なく、まさに「人財」という財が全てです。なのに、日本は現時点での教育予算の水準が低いだけでなく、ここのところずっと横ばい状態なのです。相当なテコ入れが必要だと感じています。
<図1>
出典:『図表で見る教育 OECDインディケータ(2009年版)』
教材費に地域格差
最低水準の確保を
高比良
教育現場の教職員のみなさんからは、教材費が少なくて困っているという訴えが多く届いています。
相川
たしかに、学校に行くと、教材が非常に古いし、ぼろぼろのものを手直ししながら使っている実態があります。それほど金額が高くなくても、限られた予算の中では優先順位があり、なかなか購入できないようです。義務教育の国庫負担金が2分の1から3分の1へ下げられたことも教育予算しめつけの一因と聞いています。教育費が子どもたちのいる現場に十分に届くような仕組みを整備していただきたいです。
川端
今回、学習指導要領の改訂にともなって教材を見直す必要があり、予算を増やしました。ただし、現状のしくみでは、地方自治体に対し、「教材費を増やそうという趣旨で手当をしたので、できるだけ教材費にあててくださいよ」とお願いするしかないのです。教材費については、昔は地方で購入するものに対して、国が半額の補助をするという制度でした。それが昭和60年から「地方交付税」という制度に変わり、教材費分、図書費分、他にもいろいろ計算し、まとめた金額を国からお渡しするようになりました。そのお金の用途は制限されていません。ですから、市長さんと議会とで、どこにどう使うかは自由なわけです。この制度のスタート時は、渡した以上に教材費が予算化され、財源措置額の125%程度でした。ところが、地方自治体の収入がだんだん減ってきて、「まあちょっとここは我慢してもらおうか」という中で、教材費が削られていき、今では全国平均で70%くらいまでに減ってしまった。さらには、都道府県によってかなりの差がでてきてしまっているというのが現状です。
高比良
現状がそうであれば、やはり、公教育に関しては、国庫負担金の割合を戻すというような措置が必要かもしれませんね。
川端
今の制度は、独自の地方色を出せるという点では評価されています。その一方で、教育の最低水準を確保することが、国の責務ではないか、という意見もあります。これは国民のみなさんにも、どういう選択がいいのかという議論をしていただきたいところです。
<図2>
※数値は、各都道府県の域内の全市町村における「教材費の決算額」の総額を、
「教材費のおおよその基準財政需要額」の総額で除して算出。
出典:文部科学省調査『平成20年度 教材費決算額の状況 』
少人数学級の実現と
教職員の定数の改善
高比良
教職員の数を増やし、少人数学級を実現してほしいという要望は、教育に関わるすべての人たちから声があがっています。
川端
今年度予算では、教職員定数を4200人増やしました。純増は7年ぶりです。学習指導要領の改訂で、教える情報量、内容とも増えていますから。また、社会的な環境や家庭環境が激変し、先生方の負担は増える一方です。「子どもと向き合う」時間を少しでも増やせるように、まずは教職員の数を増やしました。
相川
保護者として学校に行く機会が多い私は、先生たちの大変さを目の当たりにしています。
たとえば、教室から突然、子どもたちが数人飛び出して行ってしまう。出た子を追いかけながら、残っている子のケアもしなければならない。別の先生に迎えを頼んで、急いで教室に戻り、授業を続ける。40人近い生徒を前にして、朝早くから、夕方まで気を張りつめた状態で過ごしているのです。
川端
今は、担任の先生が一人で何もかもこなすのは、無理な状況ですよね。不登校、いじめ、家庭での虐待、社会が多様化し、子どもの内面的な問題も多い時代です。子どもたちを注意深く見守るためには、環境づくりが大事だと切に感じます。
高比良
教育先進国のフィンランドでは、担任の先生に極度の負荷がかからないようなシステムづくりが進んでいます。その第一歩は、やはり少人数学級の実現だと思いますが・・・・・・。
川端
ええ。ご要望が多いので調べてみたら40人学級と決めたのは昭和55年のことです。なんと30年も前のままだったというわけなのです。人数の問題だけではないにしろ、独自に少人数学級にとりくんでいる秋田県が学力テストの成績が良いことから、少人数学級と学力との関係性も指摘されています。教員の質の向上のための新たな免許制度や研修等の構築と合わせて前向きに検討しています。幅広く意見を聞くとともに、中教審でも本格的に議論していただこうと思います。
<図3>出典:『図表でみる教育 OECDインディケータ(2009年版)』
子どもや教職員みんなの
笑顔あふれる学校現場に
川端
すべての子どもたちにとって、「学校は楽しいところ」であるように。文部科学大臣としての願いは、それに尽きます。そのためには、保護者や教職員、まわりの大人が協力、連携すること、そしてなにより国がしっかりと支えているという姿勢でいることが大切です。
教職員のみなさんには、ぜひ、教職というすばらしい職業についていることを誇りに、子どもたちとのかけがえのない時間を生き生きと過ごしてもらいたい。先生の笑顔が、子どもたちの元気になる。そのための環境整備には、努力は惜しまないつもりです。 保護者のみなさんには、自分のお子さんのことから少し関心を広げて、国家100年の計と言われる教育を考える議論にどんどん参加していただきたい。私はいつでも「子ども応援団」としていますから。
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