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日本の子どもの貧困率が高いって本当?
  •  日本の子どもの貧困率が、国際的にみて高いということをご存じでしょうか。 貧困というと、飢えや路上生活(住む家のない状態)をイメージしがちですが、OECD(経済協力開発機構)では、「貧困」は、所属する社会の中での困窮の実態を測る必要があるとして、「相対的貧困」という概念を用いています。具体的には、その社会で最も標準的な手取りの世帯所得の半分以下で生活している状態を「貧困」と定義し、国際比較の尺度としています。

    7人に1人が貧困

     OECD加盟国を対象にしたユニセフの調査によると、2000年時点で日本の子どもの貧困率は14.3%で約7人に1人が貧困状態にあり、OECD各国の平均を上回っています (図1)
    (図2)をみると、日本の家族関連の社会支出はGDP(国内総生産)の0.75%で、フランスやイギリスなどの先進国に比べ、かなり低い数字です。とくに、子どもの人口比率が日本と近いスウェーデンと比較すると、日本の約4.7倍でその差は明らかです。アメリカは日本より少ない比率ですが、給付付きの優遇税制措置があるので、それを含めると、日本より高い公費が家族政策に注ぎこまれていると考えられます。 欧米には、保育所から大学まで授業料が無料で、在学中の生活費や教科書代も奨学金などの貸付で補助されている国が少なくありません。 日本では高校進学率が約97%に達しているにもかかわらず、無料で受けられる義務教育は中学校までとなっています。
    図1:各国の子どもの貧困率

    <図1出典> ユニセフ「Child Povertu in Rich Countries 2005」および
    「図表でみる世界の社会問題 OECD社会政策指標」(明石書店)から




    図2:各国の家族関係の給付の国民経済全体(GDP)に対する割合(2003年)

    <図2出典> 「2008年版 少子化社会白書」(内閣府)より
    元データ:OECD:Social Expenditure Database 2007
    (日本のGDPについては内閣府経済社会総合研究所「国民経済計算(長期時系列)」による)

貧困の実態とその背景 〜母子家庭の実態〜
  •  特に母子家庭は一般家庭に比べて収入が低く(図3)、母子世帯で育つ半数以上の子どもが貧困状況にあるといわれています。厚生労働省の「全国母子世帯等調査」(2003年度)によると、母子世帯数は12.5万世帯。子どもの17人に一人は母子世帯で育っていることになります。日本の母子世帯の母親の就労率は9割近くと非常に高いにもかかわらず、貧困率は最下位のトルコとほとんど変わらず、上から2番目(図4)。まさに母子世帯は「ワーキング・プア」の状態といえます。

    なぜ、働いても貧しいのか?

     母子世帯所得が低い第一の理由は、ここ10数年の間に非正規雇用など女性全体に対する就労条件が悪化していることがあげられます。母子世帯の母親の「常用雇用」の割合は、1993年の46.3%から03年には32.5%に減少。それに変わって「パート」「派遣」など雇用の非正規化が増え、母子世帯の母親の収入水準は低くなっています。NPO法人「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」の調査によると、母子世帯の母親の約5人に一人は複数の職をかけもちしているために子どもと過ごす時間が少なく、母親自身が健康を損なうケースも報告されています。 (資料1)をみると、保護者が夜遅くまで働くことが子どもの心理に影響している問題や、収入の少ない家庭の子どもは部活や進学をあきらめなければならない問題があることがわかります。
    図3:母子世帯の平均年収
       <出典> 厚生労働省「全国母子世帯調査(2006年度、2003年度)」より


    図4:ひとり親世帯の子どもの貧困率
    <出典> OECD(2005)
    資料1:貧困問題に関する先生方の声

    塾に通ったり、ピアノや剣道などの習い事にお金(時間を含め)をかけることのできる生徒がいる一方、制服、通学靴など最低限のものさえ購入が難しい生徒もいる。(鳥取県 中学校)
    経済的状況により進学を断念し、やる気をなくしている生徒がいる。(大分県 高等学校)
    体操着を1着しかそろえられない家庭があり、1週間同じ服を着ている。においがしたり汚れたりしているので、そこからいじめに発展することもある。(千葉県 小学校)
    保護者が夜遅くまで働かなければならず、子どもの生活をしっかり見られない。子どもが心理的な不安から学習に集中できない。(三重県 小学校)
     
      <出典> 「教育予算に関する学級担任アンケート」(JTU、2008年)から抜粋
再分配後に悪化は日本だけ!
  •   子どもの貧困問題に関して、これまで政府は何を行ってきたのか、国際比較を交えながらみてみましょう。

    所得再分配の前と後

    「所得の再分配」とは、税金や社会保険料などの制度を通して所得の高い人から低い人へお金を移動させることです。例えば、高所得者は所得税を多く支払い、低所得者は税金を免除されたり児童扶養手当などの給付を受けたりすることで双方の格差が縮小し、低所得者の貧困率が下がるという仕組みです。
      先進諸国のほとんどは公的年金や公的医療制度を持ち、現役世代からお金を集めて高齢世代に給付するという構造になっており、これは日本でも同じです。
      ところが(図5)をみると、日本だけが、所得再分配後の子どもの貧困率が高くなっていることがわかります。
      デンマーク、ノルウェー、スウェーデンなどの北欧諸国では、再分配前の貧困率は日本とそれほど変わらないにもかかわらず、再分配後の値は日本を大きく下回り先進諸国の中でも最も低い2〜4%となっています。北欧諸国では、家族関連や教育に対する公的支出が非常に大きく、それを賄うための税の負担も多いのですが、子どものいる貧困世帯の負担を少なくしたり、負担を超える額の給付がなされるように制度設計がされています。
     2020年までに子どもの貧困を撲滅すると公約したイギリスでは、再分配前の25%から再分配後は14%まで下げることに成功しています。
     「貧困大国」といわれているアメリカも、再分配後は約5%貧困率を減少させています。日本の子どもの貧困問題は、社会政策による見直しが必要です。
    再図5:分配による子どもの貧困率の変化
    <出典> OECD(2008)
じゃあ、どうすればいい?
    • 幸せな子どもを増やす、「子ども対策」を!(阿部 彩)
       日本の子どもの貧困率が高いというのは、みなさん意外な気がするのではないでしょうか?
      これまでの日本では、貧困というのは途上国の話で、「子どもの貧困」が日本に存在しているという認識がほとんどされてきませんでした。
      「給食費が払えない」「修学旅行費が払えない」など、最近よく聞かれるこれらの問題は、実は貧困の話でもあるのです。日本の子どもの貧困問題は、実は1980年代からすでにはじまっていましたが、政府は今までなにも対策をしないできてしまったのです。
      保護者の経済格差が教育格差に影響しているという統計も発表されました。世代間における連鎖の問題もそうですが、子どもの貧困問題は、社会問題の解決の糸口であるともいわれています。実際に、諸外国では政策の効果もまとめられています。
       具体的にはどんな対策が必要でしょうか? 実際のところ、貧困問題の解決には、今すぐ対応すること、長期的なスパンで考えていくことなど、さまざまなメニューが必要です。現金支給、現物支給、制度変更など。でも第一歩は、まず今の現状を知り、一人ひとりが声をあげていくことです。
      たとえば言葉ひとつにしても、「少子化対策」というのは将来の労働力として子どもを数でとらえている背景を感じさせますね。
      大切なことは、幸せな子どもを増やすことのはずです。真の「子ども対策」として考え、一人ひとりが声をあげれば、政府も社会も変わっていくものだと思いますよ。
阿部 彩さん 取材協力
国立社会保障・人口問題研究所
国際関係部第2室長

阿部 彩さん
マサチューセッツ工科大学卒業、タフツ大学フレッチャー法律外交大学院修士号・博士号取得。国際連合、海外経済協力基金を経て、1999年より現職。研究テーマは、貧困、社会的排除、社会保障、公的扶助。著書に『子どもの貧困―日本の不公平を考える』など (写真右)
著書
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