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    • 紙上座談会  2008年冬号Vol.6
    • いま学校では何が起きてるの?
    • 「今、学校現場では何が起きていて、何が必要なのか」――。子ども応援便り編集室で、4人の小中学校の教職員のみなさんに集まっていただいて座談会を行ったところ、今の教育現場の実態や問題点が明らかになりました。その様子を紙上レポートします。
    神奈川県小学校
    養護教諭 50代 女性

    一人ひとりの子どもともっと丁寧に向き合いたい!
    良くも悪くも児童の「駆け込み寺」的存在の保健室。以前に比べ家庭的背景までケアする必要がある子どもが多く、学校での支援に限界を感じることも。
    山梨県中学校
    教諭 40代 男性

    「子どものために」という感覚を、大切にしたい!
    教員になった理由は、子どもたちと接するのが好きだったから。「教育には創造性が大事」という気持ちを、ずっと失わないでいたいと思っている。
    千葉県中学校
    事務職員 30代 女性

    豊かな教育環境作りをサポートしたい!
    先生たちの思いをくみながら「本当に生徒たちのためになることは何か」を考え、奮闘中。厳しい学校予算の中、備品の購入ひとつにも悩む日々。
    茨城県小学校
    教諭 40代 男性

    もう少し息つく暇のある職場環境になって欲しい…
    朝7時に出勤し、夜9時すぎに帰宅する毎日に疲弊を感じている。自由な時間がなかなかとれず、ストレスが児童に伝わってしまわないかが最大の心配ごと。
予算確保が難しい!
年々教育予算が削減されているなか、現場では、実際にどういった問題が起きているのでしょうか。
グラフ1:(質問)この2、3年の間に、予算の確保が難しくなったと感じる項目がありますか。(二つまで選択可)
  • 研修費は大きな値ではないが、実体としては出張旅費の削減により、交通費が必要となる研修への参加が難しくなっていることが伺える。


    編集長  アンケート結果では、2位と3位が備品費と施設費になっていますが、具体的にどんなものが不足して、どんな弊害が起きているのか、エピソードを交えながらお話しいただければと思います。
     
    茨城県小学校教諭 40代 男性  私は小規模校に勤務していますが、古い学校なので昭和○年製という備品がたくさんあります。例えば、体育用のマットなんかボロボロです。でも小規模校だと予算も少ないので、マットを一つ買ってしまったら、年間予算の半分以上を使ってしまう。小さな学校であろうと大きな学校であろうと、授業では同じものを使うわけです。この間は、図工でラジオペンチが必要だったのに買えなかった。とにかく備品のための予算がものすごく減って困っています。
     
    千葉県中学校事務職員 30代 女性  たしかに備品の予算は年々少なくなっています。うちの学校の跳び箱は、中の芯材がなくて使えない状態のものもあります。だから、体育の授業で十分にやらせてあげられないんです。
     備品って、一つの単価が結構高いんですよね。だから、先生たちは買いたいものを選ぶのではなく、先に「予算内で何が買える?」と聞いてから、買える物を買うようになってきています。「希望を出して!」と言っても、先生たちがは「どうせ買えないだろうから…」とあきらめてしまっている感じもあります。
     
    神奈川県小学校養護教諭 50代 女性  学校に配当される予算枠とは別に、本市では以前は、保健室備品予算として十数万円ほど配当されていたのですが、最近は「学校にAED(※注1)を導入するので、保健室備品には回せない」という動きになっています。AEDの前は、熱中症対策の製氷機に予算があてられていました。保健室の備品も老朽化していますので、保健室用の予算を後回しにしないでほしいと思います。
     
    千葉県中学校事務職員 30代 女性  施設面で子どもたちが可哀そうだなと思うのは、壊れた遊具を直してあげられないことです。
     点検で修理が必要だとわかっても、高額なので教育委員会からも学校からも修理費が出せない。そうすると、「使用不可」という紙が貼られて、遊具が目の前にあるのに使えないんです。
     
    山梨県中学校教諭 40代 男性  うちの市では統廃合が進んでいて、私が教員になった頃は8校あったのが現在は4校、最終的には2校になる予定です。
     統廃合の理由は、子どもの数が減っていることに加え、耐震補強のための校舎の改修ができないからでもあります。統廃合の結果として、山道を30分以上バスに乗って遠距離通学することになった子もいます。
     
    グラフは、2008年8月、「日本の教育を考える10人委員会」が実施した義務教育に関するアンケートより。 対象は、全国の公立小・中学校の教員1200人。

    ※注1 AED(自動体外除細動器):心停止状態に陥った時、心臓に電気ショックを与えて正常に戻す医療機械。2004年7月、医療従事者だけでなく一般市民に も使用が認められ、空港・駅・ホテル・学校など人が多く集まる場所を中心に設置が進んでいる。値段は約25〜40万円。
学校が抱えている課題
経済格差と教育格差の関連性、保護者対応など、どんな問題を教職員たちは感じているのでしょうか。
グラフ2:(質問)家庭における経済格差が、児童生徒の学力格差に影響を与えていると思いますか。
  • 全体として、影響を与えていると回答した割合が約88%となっている。


    茨城県小学校教諭 40代 男性  うちの市で中学校の非常勤講師を募集した際、去年は月給24万円だったのを、予算がなくて今年は20万円以下にしたところ、18人必要なのに8人しか集まらなかった。お金のある大きな都市近郊に人材が流れてしまって人が集まらないという問題も起きています。
     
    山梨県中学校教諭 40代 男性  高校の進路指導では、本当は別の道もあるけれど、経済的な理由で難しいだろうと考えて指導にあたってしまうことがあります。
     
    編集長  「教員を辞めたいと思うことがあるか」という設問に6割を超える教員が「ある」と答える結果が出ています。職場環境については、いかがですか。
     
    千葉県中学校事務職員 30代 女性  事務室に来てお話していく先生たちが多いのですが、女性男性に関わらず、「辞めたい」と言う先生は50代の方が多いです。その年代になると、「若い先生たちを育てていかないと」という責任感が重荷としてあるようです。心の病を抱えている先生も多く、ここのところ毎年休職に入る先生に出会っています。
     
    山梨県中学校教諭 40代 男性  教育には創造性が必要だと思うのですが、きっちり決められた中にはまってしまうと、その感覚が損なわれてしまう感じがあります。教員の雰囲気は子どもたちに影響すると思うのです。教員から創造性がなくなってしまうと、そういう点でも心配です。
     以前は「子どものために」という感覚を大切に教員をやっていたのが、今は「保護者に後でなにか言われないために」という発想になっている気がして悲しい…。これが進むと「辞めたい」になるのかもしれないですね。
     
    神奈川県小学校養護教諭 50代 女性  水洗いですむようなすり傷でも、担任は保健室へ促します。保護者対応も考えてのことでしょう。「うちの子は保健室にも行かせてもらえない」と言う方もいますから。これでは、ケガの体験が「これくらいは平気」という経験になっていかないと思いつつ、あれこれ指導しながら処置をします。正直、病院へ行くほどではないと思うことでも対応していかないと今は通用しないようです。色々な面で健康教育の難しさを感じています。
     
    山梨県中学校教諭 40代 男性  以前に比べると、子どもたちが変わってきていると感じています。実体験が減ったことで、いじめをはじめ、人間関係の中で色んな問題を生じているのではないでしょうか。例えば注意されて「ごめんなさい」と言うけれど、本当に心から言ったと感じられないことが多い。本当に親しい関係というものが、子どもたちの中に出来ているのかなぁと心配です。
     
      グラフは、2008年8月、「日本の教育を考える10人委員会」が実施した義務教育に関するアンケートより。 対象は、全国の公立小・中学校の教員1200人。
 
教育現場への提案
少人数学級をはじめ、「こういう体制だったらいいのに」と思うことを、教えてもらいました。
グラフ3:(質問)小・中学校について、1クラス何人程度が望ましいと思いますか。
  • 25人未満が望ましいとする割合は、小学校では6割を超える一方、中学校では約4割となっており、小学校のほうが小さい学級規模が必要だと考えられている。



    茨城県小学校教諭 40代 男性 少人数学級ができたらいいなと思います。学力が高いと言われている秋田県では、一学級の児童数が少ないんです。25人以上の学級が、秋田は39.8%なのに対し、全国では57.1%となっています(※注2)。一学級に35人〜40人近くいたら、担任の先生は当然背負いきれない。学力向上のためにも、本来は20人以下がいいのかもしれないですね。
     
    山梨県中学校教諭 40代 男性  たしかに、子どもたちの心の面にも対応していくには、一人の教員が受け持つ子どもの数を減らさないと難しいと感じています。
     ただ、学級の人数だけの問題かというと、要は教職員の定数だと思うんですね。大人数のクラスであってもフォローができる体制もあると思います。
     
    神奈川県小学校養護教諭 50代 女性  専科の先生ももっともっと増やすべきだと思います。それと、心の問題ということでは、すべての学校にカウンセラーが必要だと思います。家庭の問題で、子どもが振り回されて悲鳴をあげている場合もあります。ケースワーカーが学校にいてもいいと思います。実際に担任がケースワーカーの役割をしていることも少なくありません。
      不登校支援もそうですし、あれしなさい、これしなさいと、社会からの要求は増えますが、人はなかなか増えません。教育ボランティアには交通費も出せません。そんな中で一番悲鳴をあげているのは、実は子どもじゃないかなと思います。
     
    千葉県中学校事務職員 30代 女性  イギリスなどの先生たちは、教えることに専念しているそうです。それに比べて日本の先生は色んな仕事を抱えています。先生たちを見ていると、多忙なことから職員同士のコミュニケーションが減ってきたと感じます。それで抱え込んでしまう部分があるのかなと。
     「教育にはお金も無駄もかかる」といいます。事務職員の私からみても、先生たちの負担を減らすための色んな手立てが必要だと、強く感じています。
     
    山梨県中学校教諭 40代 男性  教職員同士の結びつきが希薄で孤立を感じてしまうと、どうしても負担感が増してしまうので、教職員同士がもっとつながっていくことが大切だと思います。
     教職員の世界だけでなく、社会全体でつながりを持つことを考えていかないといけないのではないでしょうか。世の中を良くしようと思ったら、それぞれが勝手にやりたいことをやるのではなく、みんなでちゃんとつながっていこうと考える発想がベースにないと。そうすれば、きっと良い方向に変わっていくだろうと思います。
     
      グラフは、2008年8月、「日本の教育を考える10人委員会」が実施した義務教育に関するアンケートより。対象は、全国の公立小・中学校の教員1200人。グラフの数値は小数点第2位以下を四捨五入しているため、合計が100%にならない場合がある。

      ※注2 文部科学省が実施した「平成19年度全国学力・学習状況調査」の「第6学年の1学級当たりの児童数」の調査結果より。
      

    「子ども応援便り」
    高比良美穂編集長
    座談会を終えて
     
     ある時はケースワーカー、ある時は庭師…。報告書づくりや保護者対応に追われる中、「もっと、子どもたちと向き合う時間がほしい」という教職員のみなさんの声は切実です。子どもたちにとって、最も身近な社会である学校のこと、最も身近な大人である教職員のことを、社会全体でもっと真剣に考えていくべきだと思います。
 
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