
栗山 英樹(くりやま ひでき)
1961年生まれ、東京都出身。東京学芸大学(小中高の教員免許を取得)卒業後、1984年にヤクルトスワローズに入団。ゴールデングラブ賞を獲得するもメニエール病に苦しみ29歳で引退。スポーツキャスターや白鴎大学教授を経て、2012年から北海道日本ハムファイターズ監督を務め、大谷翔平選手の「二刀流」育成や日本一を達成。鴎
――教職員や保護者から栗山さんの指導法を知りたいとの声が届いています。
そう言っていただけるのはありがたいですが、僕も正解は分かりません。ただ、ファイターズやWBCの監督時代、ずっと大切にしてきた判断基準があります。それは「その選手のためになるかならないか」です。
良い結果でも悪い結果でも、最終的にその子のプラスになるか。それをブレずにやり続けることが、僕の育成の根底にあるものなのかなと思います。
――選手と接する上で大切にしていることは?
同じ選手でも、調子が良い時や悩んでいる時など、場面によって状況は全く違います。だから「こういう言葉をかけよう」と頭で型を考えず、その選手の状況を心で「感じる」ことが大切です。
そして何より「人の真似をしないこと」。指導者にもいろんなタイプがいます。
僕自身は徹底的に話し合うスタイルですが、普段怒らない僕が急に怒鳴り散らしたら、選手は驚いてしまいますよね。他人のやり方を学ぶのはいいですが、自分らしい向き合い方を見つけていくことが大切です。
――選手や子どもの自主性を伸ばす秘訣は?
「先に答えを与えないこと」ですね。野球で「もっと飛ばしたい」と言われた時、「こう打ちなさい」と教えてしまうと、失敗した時に「言われた通りやったのに」と人のせいにしてしまいます。失敗すると分かっていても、試行錯誤させ、「なんでだろう」と自分で考えるからこそ、改善して次に生かせる。指導者が先回りして助けてしまっては、人は育ちません。
――失敗して落ち込む子にどう接しますか?
まず「よかったね」と声をかけます。この前も少年野球でエラーをして負けてしまった子の手をギュッと握り、「今日の悔しさを絶対に忘れないでね。落ち込んでいる暇はないよ、次の打席で思い切りバットが振れるかが大事なんだから。いい経験ができたね」と伝えました。
できないことがあるから人間は努力しますし、悔しい思いをしないと考えません。中国の『易経』にも「3日間、人に嫌な思いをさせられなかったら気をつけろ」とあります。嫌なことや失敗は、「これでまた自分は成長できるぞ」と思える絶好のチャンスなんですよね。
――子どもの力を引き出すために大切なことは?
まずは、心から「この子は絶対にできるようになる」と信じ切ることです。例えば選手を試合に送り出す時、「他にいないから、お前が行ってこい」と思うのか、「お前しかいないんだ、頼むぞ」と本気で信じて送り出すのか。その違いは、子どもにも必ず伝わります。言葉や態度を取り繕っても、迷いや本心は隠せません。子どもを信じるというのは、ただ「大丈夫」と口先で言うことではなく、信じて任せて、もし失敗したとしてもその責任はおとなが引き受けること。そうした覚悟を持つことが、子どもの力を引き出すのだと思います。
――保護者や教職員にメッセージをお願いします。
教員免許を取得する際、「担任が黒板に書く字が綺麗なら子どもの字も綺麗になるし、適当ならそう育つ」と教わり、先生の影響力の大きさを実感しました。だからといって完璧を求めて、ひとりで背負い込まないでください。
昔から「身徳」という言葉があります。人として一生懸命に生きる姿を見せること。それさえあれば、特別な言葉がなくても子どもには絶対に伝わります。
思いが伝わるには時間がかかるものです。プロの選手だって引退して何年も経ってから「あの時の意味が分かりました」と言いに来ます。「自分は素敵な生き方をしているな」と思える背中を見せてあげてください。それだけで十分伝わりますから。