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■おとなも子どもも支え合って
  •   喜びを分かち合ってください
  • 昭和大学大学院准教授
    副島 賢和さん
写真:副島賢和さん

副島 賢和(そえじま まさかず)
1966年福岡県生まれ。昭和大学大学院保健医療学研究科准教授、昭和大学附属病院内学級担当。大学卒業後、東京都公立小学校教員として採用され、以後25年間、都内公立小学校に勤務。99年、東京都の派遣研修で、在職のまま東京学芸大学大学院にて心理学を学ぶ。06年から品川区立清水台小学校さいかち学級(昭和大学病院内)担任、14年4月より現職。09年、ドラマ『赤鼻のセンセイ』(日本テレビ)のモチーフとなる。20年、NPO法人YourSchoolによるYouTubeチャンネル『あかはなそえじ・風のたより』に出演。

――感染症の拡大で日常が一変しました。現状をどう捉えていますか?

 感染症の拡大により、子どもたちは「マスクをしなさい」「あちこち触ってはいけない」「大声を出してはいけない」というように、様々な我慢を強いられています。私の専門である「病弱教育」の目的の一つは、病気の子どもたちが治療に向かうエネルギーをためることです。現在、多くの子どもたちが以前より減ったエネルギーを回復できない状態であると感じます。
 病気や災害などで何らかの喪失を経験した子どもたちは、その原因が自分にあると考えがちです。「自分が○○したせいで…」と、自身を責めるのです。また、周囲にいる他の子と比べて、「みんなは○○できているのに自分は…」と、引け目を感じる子どもも多いです。こうした自責の念や劣等感は、子どもたちの発達上、大きな歪みをもたらします。私たちおとなは、現在、子どもたちがそういう苦しい状況に置かれているということを理解するべきです。

――子どもたちにどのように接するべきでしょうか?

 子どもたちは、ときには大声を出したり、駄々をこねたり、ネガティブな感情表現をしてしまうこともあるでしょう。自分の感情や考えを外に向けてうまく表現する方法が分からないのです。子どもたちの感情には、必ず隠されたメッセージがあります。怒りは「変わってほしい」、悲しみは「分かってほしい」、喜びは「増やしてほしい」、恐怖や不安は「早く取り除いてほしい」というように、感情は子どもたちの願いの表れです。そして、周囲のおとなができることは、子どもたちの内側にある願いを表現するための言葉を与えてあげることです。
 悲しみの感情を表現している子どもに対して、「うんうん、とても悲しいよね。本当は○○したかったんだね」と、モヤモヤした感情を願いに言い換えてあげることで、子どもは「だから自分は悲しかったのか」と気づきます。感情を言語化することで、自らの内面と向き合い、自分を形作っていくのです。
 また、子どもたちは常に心の内を表してくれるとは限りません。学校では平静に見える子どもが、家庭では極端に甘えん坊になったり、わがままになったりするケースもあります。まずは話をしっかり聞いて、「苦しかったんだね」「いつも頑張っているね」と、その努力をねぎらい、再びエネルギーをためられるように寄り添って支えてください。
 エネルギーを回復するためには、過去や未来のことをいったん脇に置いて、「今」を味わうことが重要です。今この瞬間を大切に思えることで、もう一度前を向く力が湧いてくるはずですから。

――保護者や教職員にメッセージをお願いします。

 今日という一日は誰にとっても「初めての日」です。私たちは毎日初めてのことに挑戦し続けているのです。今回の感染症拡大も人類にとっての未曾有の経験です。多くの方々が子育てや教育の場で、苦しさを抱えながら日々奮闘していることでしょう。おとなだって苦しければ、エネルギーが減ってしまいます。そんなときには、趣味を楽しんだり、美味しいものを食べたりしてリフレッシュすることも必要です。ときには、誰かに悩みを打ち明けることも大切です。本当の意味での自立とは、人を頼らず生きることではなく、苦しいときに助けを求められる相手を持つことではないでしょうか。助け合う姿を子どもに見せられる世の中であってもらいたいです。
 もう一つ。もしも自分が間違ったときや失敗したときは、相手が子どもでも、意地を張らずに素直に謝るべきです。失敗したら、こうして挽回すればいいということを、言葉ではなく態度で教えてあげましょう。
 どうか、おとなも子どもも互いに支え合って、今この瞬間を共有し、喜びを分かち合ってください。何も特別なことをする必要はありません。子どもが美味しいという顔をしたら、「美味しいね」と言ってあげるだけでいいのです。単純ですが、その積み重ねが子どもにとってかけがえのない宝物になるはずです。

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