葉一(はいち)
1985年、福岡県生まれ。東京学芸大学卒業後、茨城県の教材販売会社を経て、学習塾に転職。3年間勤務した後、2012年から経済的事情から望む教育が受けられない教育格差の解消をめざして、You Tubeに授業動画の投稿を始める。活動理念と分かりやすい授業が評判を呼び、TBS「情熱大陸」等でも紹介される。2020年7月、「とある男が授業をしてみた」のチャンネル登録者数が100万人を突破(21年3月現在135万人)。2児の父。
――教育系YouTuberとして多くの授業動画を投稿されています。
大学入学時は卒業後すぐに教員になるつもりでした。でも、学生生活や教育実習を通して、自分の未熟さや視野の狭さを思い知り、子どもの前に立つ前にもっと社会経験を積もうと、修行のつもりで「飛び込み営業」の仕事に就きました。夢中でやっているうちに、持病が悪化して塾講師に転職。そこで感じたのが、家庭の経済状況によって塾に通える子どもは限られるけれど、通えない子にこそ自分の授業が必要とされている、ということです。そんな時、You Tubeに授業動画を投稿すれば誰でも無料で見られると思いつき、翌日から配信を始めました。
最初はほとんど見てもらえず、再生回数が確認のために自分が見た回数と同じということもありました。でも、諦めずに投稿を続けると、子どもたちに少しずつ浸透していきました。続けていると嬉しい声をいただくこともあります。ある日、「うちの子は不登校でしたが、動画で勉強して期末試験で一桁台の順位が取れました。それが自信になって登校できるようになり、そのまま卒業まで通えました」とコメントが入っていました。活動が報われたと思った瞬間でした。
――コロナ禍でオンライン教育の必要性が語られるようになりました。
一斉休校が報道された時、生活習慣が乱れることで学校再開時に適応できない子どもたちが出るだろうと思いました。少しでも力になれればと、「午前中に一緒に勉強しよう」と呼びかけ、「自習室」の放送を始めました。休校でも朝起きてきちんと勉強することができたら、自己肯定感も保てると思ったんです。子どもたちには、「焦らなくても大丈夫だよ」と伝えるようにしていました。
この案は海外のYouTube文化「#Study with me」が土台です。作業動画を配信し、それを見ながらみんなで勉強したり、作業したりする。この方法で子どもたちはおとなの想像以上に集中して勉強するんです。仲間や尊敬する人と「一緒にやっている」ということが安心感とやる気につながるのだと思います。ICT教育というと、個別学習のツールという面が強調されますが、それだけではないと気付かされました。
――葉一さんは2児の父親でもあります。どんな子育てをしていますか?
よく言われることですが、ついわが子には厳しくなってしまいます。「なんでこんなこともできないの」と、他人の子には絶対言わないことを口にしてしまう。そんな時は、自分の一言は本当にこの子のためにプラスになるのか、と問いかけるようにしています。
また、自分の役目をシンプルに考えるようにしています。「あれも、これも」と多くを抱えると、余裕がなくなり、子どもに当たってしまうかもしれません。そんな負のスパイラルに陥らないよう、僕は役割を二つに絞り、それを軸に自分の言動を決めています。
一つは子どもに「選択肢を見せる」こと。例えば、スポーツの習い事でいうと、水泳やサッカー、ダンスなど子ども自らが知りえる競技は限られています。そこで「ボルダリングもあるよ」と、調べて見せてあげる。選ぶのはあくまでも子どもたちです。
もう一つは「知的好奇心が育つ環境をつくる」こと。新しいことを知るのは楽しいと思い続けてもらいたい。だから、そのために子どもが何かに興味を持ったらまずは肯定します。
――保護者や教職員にメッセージをお願いします。
SNSでの子どもたちとのやり取りを通して実感していることがあります。それは、僕がYouTube上でどんなに熱を込めて話しても、そばにいる保護者や教職員の一言には敵わないということです。彼らは周りのおとなのことをよく見ていますし、言ったことを覚えています。表ではそっけない素振りや反抗的な態度だったとしても、その裏には必ず親や先生に好かれたいという気持ちがあります。だから、自信を持って本音で子どもたちと接してもらいたいです。