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■誰でも最初は「親一年生」
  •   失敗も味わうことが大事
  • 五輪メダリスト・メンタルトレーニング指導士・
    IOCマーケティング委員
    田中ウルヴェ 京さん
写真:田中ウルヴェ京さん

田中ウルヴェ 京(たなかウルヴェ みやこ)
1967年東京生まれ。1988年ソウル五輪シンクロ・デュエット銅メダリスト。米国大学院で修士号取得(専門はスポーツ心理)。日本スポーツ心理学会認定メンタルトレーニング上級指導士。トップアスリートからビジネスパーソンなど幅広くメンタルトレーニングを指導、心理学をベースにした研修や講演を行う。パラリンピック車いすバスケ男子日本代表チーム・なでしこジャパン等メンタルトレーナー。IOC国際オリンピック委員会マーケティング委員。スポーツ庁スポーツ審議会委員。報道番組レギュラーコメンテーターを多数務めている。フランス人の夫と一男一女の母。

――最近の子どもたちを見ていて感じることは?

 良くも悪くも情報過多の時代だと感じます。知的好奇心を満たしやすい反面、玉石混交で何が正しいか分からなくなり、新たなストレスにもなっています。そんな中、思春期の悩みや迷いとして、子どもたちからよく聞く言葉に「やりたいことが見つからない」というものがあります。まるで、やりたいことを早くから見つけるのが正しいかのような風潮です。
 でも、「自分とは?」という自我に対する気づきは、例えば外国人と会って「私は日本人」と意識するように、外部の刺激があって初めて生まれるものです。子どものうちにやりたいことが見つからないのは当たり前ですし、その期間に悩むのはとても重要な過程なのです。だから、子どもたちが思い込みに囚われている時には、周りのおとなが「それって本当?」と、問いかけてあげることが大事です。

――子育てではどんなことを意識していましたか?

 子どもを授かった時、正直なところ「母親の責任をきちんと果たせるかな」という危機感が先に立ちました。私の場合、「親としては1年生」と考え、そこから学ぼうと思えたことが良かったと思っています。「子育ては親育て」という言葉があるように、親も失敗したり、悩んだりします。なかなか寝ない時はいらつきます。でも、お昼寝をしっかりしてくれるとウキウキする。そうした毎日の浮き沈みをきちんと味わうことが大事だと思います。
 いらついたり、落ち込んだりするのは、自分の素直な気持ちです。否定するのではなく、「今日はいらつく自分がいるな」と、一歩引いてみることで、感情と行動は切り離せます。私は、日記を書いて吐き出すことで整理していましたが、それぞれのやり方を見つけられると良いと思います。

――欧米と日本を比較して感じることは?

 アメリカで初めてコーチをした時のことです。その日の練習メニューを説明し始めると、シンクロを始めたばかりの12歳の子が「なぜこの練習をするんですか?」と質問してきたのです。当時の日本では、反抗的な態度だと受け取られることも多い場面だと感じ、正直、最初は構えてしまいました。でも、接するうちに彼らが「なぜ?」と問うのはリスペクトの表れであり、練習の意味をきちんと理解してとりくみたいからだと気づきました。ただし、攻撃の手段として子どもが使う「なぜ」に対しては、一対一でじっくり本当の不安や怒りを聞くなどの対応が必要なこともあるでしょう。

――コロナ禍で、疲弊する保護者や教職員にアドバイスするとしたら?

 まずは、「今はストレスがかかるのが当たり前の状況だと自覚する」ことです。いつまで続くか不明で確立した対処法もない不確実な状況での生活は、苦しいものです。さらに、人間関係や仕事などの日常ストレスも生じます。今は、多くの人が普段よりストレスを抱えています。自分だけではないことを分かっておくだけでも、だいぶ気が楽になるはずです。
 その上で、普段より意識的に自分をいたわる時間を作ることが大事です。よく「休みたくても休めない」と言う人がいますが、休むだけが対処法ではありません。できる範囲で、無理なく続けられる方法を見つけましょう。私は自宅でピラティスやYouTubeを参考に体幹トレーニングをしています。「五十肩 初歩」など悩んでいる症状で検索すると、簡単にとりくめるトレーニング動画が見られます。

――子育て中の保護者へメッセージをお願いします。

 子どもと接する時、親として評価しないことを意識してみてください。子どもが悩んでいるところは見たくないですから、つい解決法を口に出したくなります。でも、ぐっと堪えて子ども自身に考えさせることが大事です。私の場合は、その葛藤を隠さずに、母親としての発言と仕事であるメンタルトレーナーとしての発言を分けて伝えるようにしていました。あくまでも決断を子ども自身に委ねることで、その経験が本人の自信にもつながっていくと思います。

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