大崎 麻子(おおさき あさこ)
1971年生まれ。上智大学卒業後、米国コロンビア大学で国際関係修士号を取得し、国連開発計画(UNDP)にて、ジェンダー平等と女性のエンパワーメントの推進を担当。世界各地で女子教育、女性の雇用・起業支援、政治参加の促進、紛争・災害復興などのプロジェクトを手がける。現在はフリーの国際協力・ジェンダー専門家として、国内外のジェンダー問題、女性・ガールズのエンパワーメントに従事している。男女共同参画推進連携会議有識者議員、公益財団法人プラン・インターナショナル・ジャパン理事。近著に『エンパワーメント 働くミレニアル女子が身につけたい力』など。
――最近では子どもの人権問題にも熱心にとりくんでいらっしゃいます。
米国で大学院在学中に長男を出産したことが大きなターニングポイントとなりました。わが子の顔を見ていてふと思ったのです。世界中には、紛争や貧困問題が山積しているけれど、この子がおとなになった時、平和な世であってもらいたい、と。親になって、どこか遠い国の問題だと思っていた紛争、人権侵害、貧困などの問題を当事者として考えるようになりました。
――海外で仕事と子育ての両立は大変だったのでは?
常に睡眠不足で、体力的には大変でしたが、同僚や上司の精神面でのサポートが大きな支えになりました。
長男が6歳の時、長女を妊娠したのですが上司から「ワークライフバランス制度」の活用を勧められました。2歳未満の子どもがいる人には「子連れ出張」が認められ、子どもの飛行機代が出たり、1日30分長く働けば、2週間に1日、有休が取得できたりする制度でした。直属の上司は子育てとの両立に苦労してきた方でしたから「あなたたち後輩のためにこの制度をつくったのだから、どんどん活用してほしい。育児を優先するとキャリアが途切れるのではないかと心配になるだろうけど、育児経験は開発支援の仕事上でも必ず役に立つから」と助言されました。
その後、発展途上国で女性向けの職業支援に携わった時のことです。研修をしても人が集まらなかったので、育児に影響が出ないような時間帯にしたり、子ども同伴でも参加できるようにしたところ、大人気の研修となりました。
――子育てをする上で大切にしてきたことは?
子どもと関わる時間をできるだけ確保するよう努めました。国連を退職したのは子どもが9歳と2歳の時。ニューヨークから東京への引っ越しで子どもたちの生活環境はがらりと変わりました。時間に融通のきくフリーランスを選んだのも「できるだけそばにいたい」という理由からでした。
幼稚園、小学校、中学校と、積極的にPTA活動にも関わりました。私自身、学校嫌いな子どもだったのですが、親がPTA活動で学校に来ていた姿を見て、嬉しくて安心したという経験もありましたので。
――PTA活動ではどんなことにとりくみましたか?
娘が中学生の時に会長を経験しました。学区では、2017年7月、全国に先駆けて教職員の働き方の改善に関する通知を幼小中学校の保護者宛に配布しました。これを受けて、「教員の長時間労働の軽減」をテーマに保護者として何ができるか、他校の会長と連携し、考えることになりました。まず各校の先生の勤務状況を調べました。すると、部活動や事務作業、保護者からの電話対応などに多くの時間を費やしていると分かりました。自校では、こうした状況を運営委員会で発表したり、保護者向けの会報誌に載せたりしました。
会長たちの集まりで、電話対応が話題にのぼったことがありました。長い先生では1日2時間も対応しているというのです。情報交換するうちに、保護者が学校に電話したくなるのは、子育てに対する漠然とした悩みや不安を抱えている時や場合が多いということが見えてきました。それならば、自治体の教育相談センターなど、専門家のアドバイスを受けられる窓口に繋ぐ方が、解決に近づくのではないかとの意見が出され、教育委員会事務局との懇話会でお伝えしました。社会資源の活用を保護者に周知することで、先生の負担を少しでも軽減できれば、と考えたのです。
――保護者にメッセージをお願いします。
保護者のみなさんは、できる範囲で積極的に学校に関わり、先生の良きパートナーになってください。
娘の通っていた中学校でのことです。キャリア教育の授業を学校とPTAが協力して、それまでの外部講師に代わって保護者で実施したところ、思いがけず生徒にも大好評でした。
教育環境は、そのまま我が子にかえってきます。知恵を出し合い、より良くしていきたいものです。