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■ともに楽しんだ時間が
  •   豊かな感性を育みます
  • 音楽評論家、作詞家
    湯川 れい子さん
写真:安藤和津さん

湯川 れい子(ゆかわ れいこ)
1936年、東京都生まれ。音楽評論家、作詞家。60年、ジャズ専門誌 『スウィング・ジャーナル』でジャズ評論家としてデビュー。早くからエルヴィス・プレスリーやビートルズを日本に広めるなど、独自の視点によるポップスの評論・解説を手がける。作詞家として代表的なヒット曲に 『涙の太陽』、『ランナウェイ』、『ハリケーン』、『センチメンタル・ジャーニー』などがある。『音楽力』(海竜社)、『新版 幸福絵のパラダイム』(海竜社)、『音楽は愛』(中央公論新社)、『女ですもの泣きはしない』(KADOKAWA)など著書多数。

――湯川さんと音楽との出会いはいつでしょうか?

 私が中学生の頃は、まだ戦後間もないこともあって、流れる曲は内容的に暗いものが多かったのですが、ラジオのダイヤルを回すと「進駐軍放送」から、戦死した兄が口笛で吹いていた曲が流れてきたのです。びっくりして、もう一度聞きたい一心でラジオにかじりついたものです。
 これが音楽との出会いだと思っていたのですが、今、振り返ってみると、それよりも前に“音楽の畑”が耕されていたのだと、分かってきました。
 我が家では、中秋の名月の夜になると、家族みんなで楽器を演奏してお月見を楽しむ慣習がありました。当時4歳の私に母は、「好きな時に好きな音を出してごらんなさい」と、曲に合わせて自由に、茶碗やコップをスプーンで叩いて楽しんだことを覚えています。こうした幸せな家族の記憶が、後に音楽の世界へとつながったのだと思います。

――幼少期の経験は人生に大きな影響を与えますね。

 人間の五感のうち、最初に育つのが聴覚だといわれます。子どもはお腹にいる時から、母親の心臓の音や声を羊水越しに聞いています。母親の心拍数が上がれば、子どもはその倍以上の速さになるといいます。そうして同調しながら10カ月を過ごすのです。
 生後半年くらいになると、明るく楽しい音楽に合わせて、満面の笑みでぴょんぴょんと飛び跳ねたりするようになります。そんな時、周囲のおとなが一緒に歌ったり、手拍子をしたりして「上手、上手!」と褒めれば、その子にとって楽しい幸せな記憶として残るでしょう。こうしたことが、感性や知性の畑を耕すことにつながると思うのです。子どもたちにとっては、「何を教わるか」より「どう教わるか」が大切です。

――おとなになっても感性の記憶は残りますね?

 認知症の方に多いのですが、パートナーや子どもの名前は忘れてしまったのに、幼少期に聞いたり、歌ったりした音楽は覚えているということがあります。
 母も、88歳でかなり認知症が進み、私の顔もわからなくなりました。でも、明治生まれの母親に、『鉄道唱歌第一集』の歌い出し、「汽笛一声新橋を〜♪」と歌いかけると、それ以降の歌詞がどんどんと出てくるのです。全66番あるのに、ずっと歌い続けていました。

――ご自身の子育て経験を踏まえ、保護者や教職員にメッセージをお願いします。

 私は手をかけすぎたかな、と反省しています(笑)。もう少し子どものことを信頼してもよかったのにと思います。
 「なにグズグズしているの!」「宿題はもうやったの?」。保護者はつい、先回りして注意したくなりますよね。でも、宿題をしないで困るのは本人です。困ってから、「どうする?」と一緒に考えても遅くないのではないかと思います。
 環境問題が指摘され始めた頃、ドイツに視察に行きました。3、4歳の幼稚園児を公園に連れて行き、お弁当を食べ終わると先生が、「公園のゴミ箱に捨てていいもの、持ち帰るべきものを分けなさい」と言うのです。幼い頃から共に考えて答えを出す。そうした経験こそが豊かな学びになると思います。必ずしもおとなの出す答えが正しいとは限らないのですから。
 そういう意味では、答えが様々な感性重視の美術や音楽の時間が少ないのは残念です。一方で論理的に冷静に対話する習慣を根付かせる必要性も感じます。
 私自身、SNSで情報発信をしていると、時には厳しい反論が寄せられることがありますが、基本的にブロックはしません。まずは相手の意見を聞き、円満に解決できるように、誠心誠意説明します。すると、「そういうことだったのですね」と理解してもらえることもあります。
 日本では昔から「物言えば唇寒し」と、余計なことは言うなという風潮があり、意見の異なる人との対話を避ける傾向にありますが、人はみな肌や目の色が違うように考え方も百人百様です。だからこそ面白いのです。その楽しさを子どもたちにも知ってほしいです。

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