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    若宮正子さん
写真:若宮正子さん

若宮正子
1935年、東京都生まれ。銀行を定年退職後、パソコンを独自に習得し、2017年にはiPhoneアプリ「hinadan」をリリース。同年、Apple社の世界開発者会議(WWDC)に特別招待される。シニア世代向けサイト、メロウ倶楽部副会長、NPO法人ブロードバンドスクール協会理事も務める。近著に『60歳を過ぎると、人生はどんどんおもしろくなります。』(新潮社)、『明日のために、心にたくさん木を育てましょう』(ぴあ)など。

――「エクセルアート」や国連やTEDでのスピーチが大きな話題となりました。

 銀行を定年退職した後、母の介護で、外出もままならない生活でした。おしゃべりが大好きな私は人と会えないのが辛くて。そんな時、「パソコンがあれば世界中の人とつながる」という雑誌記事を読み、すぐにパソコンを買いました(笑)。
 パソコンのおかげで、介護とおしゃべりの両立ができたので、母の他界後、恩返しのつもりでシニア向けパソコン教室のボランティア講師をしたのです。その時に生まれたのが、「エクセルアート」です。シニアにとって、数字を入れていくエクセルというソフトはつまらない。一方で高齢のご婦人は手芸が大好き。だから、その感覚でエクセルのマスを色で埋めてみたらどうだろう、と。すてきなデザインができて、うちわや紙袋をつくりました。
 アプリ開発は80歳代での挑戦です。シニアが若者に勝てるゲームを、という思いが、ひな壇アプリのアイデアにつながりました。

――80歳を過ぎてプログラミングを学ぶことに不安はなかったのですか?

 「よく決心しましたね」と言われるたびに、「始めるのに決心が必要なの?」と疑問に思います。パソコンさえあれば、開発ソフトも無料でダウンロードできて、誰に迷惑をかけるわけでもないです。それに、嫌になったらやめればいいの。
 日本人は、おけいこ事や趣味を始めるにも覚悟やある程度の能力が必要だと考える傾向があります。
 例えば、今、英会話を身につけたいと思っているのに「恥をかかないよう、ある程度上達してから英会話学校に通おう」という人が多い。恥をかきながらも続けることが、物事を上達させる一番のコツです。 
 「徒然草」にも「『下手なうちはこっそり練習して、上達してから人に披露するのが格好いい』という人が成功した例はない」と書かれています。鎌倉時代から日本人はカッコつけだったことが分かりますね(笑)。

――これからは「AI時代」になっていきます。

 私が銀行に入行した頃、優秀な人材とは、機械のように正確にお札を数えられる人のことでした。その後、テクノロジーが発展し、企画開発など、クリエイティブな要素が求められるようになりました。時代が変われば、価値観も大きく変化すると体感した世代です。
 これからは、人間とAIが二人三脚で暮らす時代がやってきます。AIの情報処理能力は人間よりずっと早く正確で、「1」を「10」にも「100」にもできます。でも、今のところ「0」を「1」にすることはできません。だから、これからはAIが担えない部分、つまり、創造力をはじめ発想力や包容力、人情など生き抜く力としての「人間力」を磨くことが大事です。そのためには、自分とは異なる世代や職種の人と接したり、本をたくさん読んだり、リアルな体験をすることが大事だと思います。

――そんな時代の子育てのポイントは何でしょうか。

 子どもたちの創造力を育むには、おとな自身がクリエイティブであることが大事です。家庭の中が「あれはダメ、これはダメ」の「ドント教育」では個性が伸びなくなってしまいます。
 今の保護者は、まだ子どもの頃にデジタル技術を習っていないので苦手意識やとまどいもあるでしょう。でも、だからこそ、これから子どもたちと一緒に学ぶチャンスです。
 あるプログラミングの親子教室で、自分の子どもが作ったロボットの動きが、他と違うのを見て、「うちの子はダメだ」と嘆いた保護者がいました。人と違う結果や、失敗は悪いことではありません。その原因を調べれば次の成功や新たなアイデア、さらには自分の得意なことの発見につながるのです。子どもたちと一緒に、たくさんの失敗を経験してください。
 それから、他人とは比べないこと。例えば、「九九」を忘れた時、「周りはもう完全に覚えているよ」ではなく、「復習が足りないから、 もうひと頑張り」と注意されれば子どもは納得します。進度や程度に関係なく、その子の中の進歩を褒めてあげてください。

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