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■子どもたちが「今、ここ」で
  •   感じていることを大切に
  • 脳科学者
    茂木健一郎さん
写真:茂木健一郎さん

茂木健一郎
1962年東京生まれ。ソニーコンピュータサイエンス研究所シニアリサーチャー。東京大学理学部、法学部卒業後、同大学大学院理学系研究科物理学専攻課程修了。理化学研究所、ケンブリッジ大学を経て現職。『脳と仮想』(小林秀雄賞受賞/新潮文庫)、『今、ここからすべての場所へ』(桑原武夫学芸賞受賞/筑摩書房)、『脳とクオリア』(日本経済新聞社)など著書多数。新著に『脳を鍛える茂木式マインドフルネス』(世界文化社)、『ありったけの春』(夜間飛行)がある。

――どんな子ども時代を過ごされましたか?

 変わった子どもでした。興味があったのはチョウの生態で、落ち着きがなくて、忘れ物も多かった。宿題などの提出物も苦手で、授業中、よくリカちゃん(仮名)と一緒に教室の後ろに座らされ、二人で粘土遊びをしたものです。リカちゃんは小学3年生から特別支援学級に行くことになりました。今で言うと、ADHD(注意欠陥・多動性障害)だったのかもしれません。僕自身がこんな風でしたから、はみ出してしまう個性的な子どもにはとてもシンパシーがあります。はみ出す部分も個性として認めてあげたい。

――子どもの個性を認めるために保護者や先生は何をするべきなのでしょう?

 子どものことをまるごと見てあげてほしい。そして、「セキュアベース(安全基地)」になって、子どもが得意なものを見つける「宝さがし」の過程に付き合ってあげてもらいたい。
 僕自身、よく「人の話、聞いてないでしょ」などと言われていましたが、それでもちゃんと聞いていたんです。何かをじっくりやるのは苦手だったけれど、一度にたくさんのことをこなしたり、集中力を切り替えたりするのは得意だったのだと思います。それは今では長所です。無理に僕を変えようとしなかった先生と親に感謝しています。

――子どもの個性と脳はどのような関係でしょう?

 脳科学では、一人ひとりの個性を大事にすることが、脳の発達にとてもいい影響を与えるとわかっています。教育の分野でもその方法を取り入れてはどうでしょう。 方法としては、課外活動や「総合的な学習の時間」で興味のあるものについて徹底的に考える体験を与えることだと思います。カレーが好きなら、カレーという料理の歴史や、スパイスの種類、産地などを調べて、一皿のカレーができ上がるまでの仮説を立てるのです。仮説を立てるには、歴史学や生物学や地理学、経営学など様々な知識と考え方が必要になるので、学ぶ姿勢や習慣が身につきます。
 そして、自分が組み立てた仮説を発表する。知識や考え方はアウトプットをすることで脳に定着しますから、人に聞いてもらうことも重要です。ペーパーテストでいきなりアウトプットさせようとしても、まだ脳に定着する前なんです。その段階の点数で判断されてしまうのは酷なことです。
 何かを追及する体験によって、他の教科の成績も上がります。人間探求科を開設した京都の堀川高校の例でも実証されています。

――最近、出された本では「マインドフルネス」がキーワードになっています。

 マインドフルネスとは、あるがままの自分を受け入れ、他の人にも受け入れてもらうことです。子どもが「今、ここ」で感じていることをわかってあげて、一期一会を大事にしてあげてほしい。今日と明日でおとなは大して変化しないかもしれませんが、子どもは大きく変わります。1年後はさらに変化しています。「今、ここ」で感じたことを子どもが誰かと共有できれば、個性が育っていきます。
 アニメーション作家、宮崎駿さんからうかがった話を思い出します。知り合いの子どもが遊びに来たとき、駅までオープンカーで送って行ったのに、小雨が降っていて幌を開けなかったのだとか。宮崎さんはそのことを「一生、後悔するだろう」と言っていました。風に吹かれて車に乗ることでその子が感じていたはずのことを奪ってしまったと。何年か後に幌を開けたとしても、その瞬間とは違うでしょうから。

――子育て中の保護者や教職員にメッセージをお願いします。

 僕が保護者によく聞かれる質問に「子どもを、仕事のできるおとなにするにはどうしたらいいですか?」というものがあります。答はやはり個性です。興味のあることを徹底的に追及することは、社会人が毎日、仕事でしていることと同じではないですか。個性を伸ばすことが、学ぶ姿勢、さらに働く姿勢につながっていくことを意識してもらいたいと思います。

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