レモンさん(山本シュウ)
ラジオDJ。1964年大阪府生まれ。通称「お節介な、男の顔したシンセキ(親戚)のオバチャン」。「We areシンセキ!」を合言葉に、様々なメディアやプロジェクトで人とのつながりの大切さを伝える。TBS系ラジオ「全国こども電話相談室・リアル」で2008年から15年までパーソナリティを務めた。現在はNHK Eテレ「バリバラ」、全国FMラジオ「LOVE in Action」などの番組で活躍中。大きなレモンの被り物をした「レモンさん」というキャラクターで小学校のPTA会長を5年間務め、その後もPTA顧問を続けている。07年より大阪大学にて非常勤で「教職論」を教える。著書に「レモンさんのPTA 爆談」、「レモンさんの子育てビタミン標語」(ともに小学館)がある。
――障害者視点のバラエティー番組「バリバラ」(NHK Eテレ)が話題です。
寝たきりの出演者がカッパに扮して出演したり、街中で受けた差別を歌にしてみたり。放送開始当初は、視聴者から「障害者を笑いものにするな!」とお叱りを受けるのを覚悟しました。ところが、予想に反して、ほとんどクレームなし。
これまでの「障害者=かわいそう」という無意識の差別の方が、よっぽど「障害者の自分らしく生きる権利を阻害している」と、社会がようやく気付き始めた、時代の転換期がきているのを実感しています。
――16年4月に「障害者差別解消法」が施行されましたがー。
この法律には、障害者への「不当な差別的取扱いの禁止」や「合理的配慮の提供」という文言がある。ちょっと待ってよ、よく考えて。「人を差別せず、配慮する」のは、人権の観点から言えば、当たり前のことですよ。私たちはまだ人権宣言をしてないのかな、と思ってしまいます。みんなの人権が守られている社会にすればいいだけのこと。
例えば、「We are シンセキ!」を合言葉にしている我々なら、「合理的配慮」を「シンセキ的配慮」に置き換えますよ。
――今の社会には「シンセキ的配慮」はないと?
「バリバラ」に関わったことで、今の社会は、びっくりするほど障害者に優しくないことに気づきました。障害者も「自分は健常者じゃないから仕方ない」とあきらめているところがある。しかも、それを当事者や関係者以外の人がぜんぜん分かっていない。ただし、このことでは誰も責められない。長い間、障害があれば、聾学校や盲学校と分けられ、同じ教室で過ごしてこなかったから、知らないし、気づけなかった。そんな社会の構造が無意識の差別を生みだしていたのだと思います。今こそ、「障害者差別解消法」が必要になってしまう社会のおかしさに気づき、行動してもらいたいですね。
――どんな時が、気づきのチャンスでしょうか?
ある日のお昼時、レストランに車いすの人が訪れた。店員は「混む時間帯のため、車いすでの入店はご遠慮ください」と応じる。その様子を見ていた周りの客は「難しい問題だよな、お店側も困るもんな」と納得する。
店員にも、客にも、その感覚が不条理なものだと気づいてもらいたい。車いすの人が自分たちの親戚ならば、なんとかして、スペースをつくる工夫をするのではないでしょうか。
――人権が守られる社会にするために私たちができることは?
社会のおかしさに気づき、問題意識を共有できた者同士が、共に声を上げていくことだと思います。障害のあるなしで分けるのではなく、一人の人間として、その個性や特長を尊重し、一緒に解決策を模索していこうということです。
価値観が多様化するなか、教育現場でも選択肢を広げるべきです。「障害があるなら特別支援学校へ」との固定概念は捨て、通常学級で学ぶことを望む声があるなら、それに応え、何が必要かを共に考える。専門性を有する教員の配置だったり、必要な設備の確保だったり、国にしっかりと教育費に予算をつけてもらうことも重要です。
――子育て中の保護者や教職員にメッセージをお願いします。
「教える」意識を捨て、「気づかせる」ことに徹するのが大事だと思います。そのためには、失敗を見守ることも必要です。子どもが失敗すると、「何やってるの!〇〇しなきゃだめじゃない」と、つい叱りながら正解を口にしてしまい、せっかくの「気づき」のチャンスを逃していませんか。また、子どもはしくじって叱られると「失敗は悪いこと」と認識します。すると、失敗を恐れ、色々なことに挑戦しなくなります。
「気づかせる」には、根気が必要かもしれませんが、子どものことを思うのならば、「急がば回れ」です。「失敗は成功のもと」である前に、「成長のもと」なのですから。