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■現場の声を生かした子育て、
  •  教育政策を
  • 慶應義塾大学教授
    片山善博さん
写真:片山善博さん
片山善博
1951年岡山生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科教授。74年、東京大学法学部卒業後、自治省(現総務省)に入省。鳥取県庁などへの出向を経て、自治大臣秘書官、自治省国際交流企画官、などを歴任。99年に鳥取県知事選挙で初当選し、2期務める。2010年、菅改造内閣で初入閣、第14代総務大臣を務めた。

――6人のお子さんの子育てを経験し、
  ベストファーザー賞も受賞されました。


 今から思えば、子どもが小さい頃にもっと長い時間、接してあげたかったな、と思います。
 たとえば、オランダでは、子育て中の保護者の働き方は非常にフレキシブルです。勤労者同士で雇用を分け合う「ワークシェアリング」制度を上手く活用し、男性も仕事を週3日程度にしている人も少なくありません。そうした事情をうかがった時、「親として、こういう働き方、生き方もあるんだ」とはっとさせられました。
 育児という観点から見ても、今の日本は明らかにワークライフバランスが崩れています。子育てに関しても、もっと企業や経済界の理解と協力が必要です。

――鳥取県知事時代、現役部長に
  
育児休暇を認めて話題になったそうですね。

 自分自身が悔しい思いをした分、後輩たちの子育てにはできるだけ協力してあげるべきだと思いました。
 私自身が総務省(旧自治省)に在籍中、4人目の子どもが生まれる直前に引越しを要する転勤を命じられたことがあります。「勘弁してください」と申し入れると、「君が産むわけじゃないだろう」と、実に機嫌が悪かった。
 ですから、現役部長が育児休暇の相談にきた時に、すぐに快諾しました。ただし、「復帰後に議会で報告してくれ」と。休暇を終えた彼は議場で報告を行いました。「判子はどこにあるのか、子どもの幼稚園の先生はどんな人か……、私はこれまで家庭のことを何も知りませんでした」。「子どもとの会話には、可愛いお弁当作りが一番です…」
 満場の拍手でした。

――30人学級の実現など教育政策にも積極的でした。

 「1学級40人は多すぎる」というのも保護者としての実感でした。子ども6人を連れて何度も転勤したので、様々な学校、学級を経験しましたが、人数によって、クラスのまとまり度合いなどに明らかに違いが見られました。
 そこで、02年度から鳥取県内の小学校低学年で30人学級を導入したところ、教職員も保護者もすごく喜んでくれました。とくに担任の先生は、「より自信をもって指導ができる」と。
 社会が多様化し、家庭の事情も一人ひとり異なる中で、保護者は、より自分の子どもに目をかけてもらいたい。一方、教職員が、その期待に応えるには、昔よりかなりきめ細やかに対応しなければならない。
 「モンスターペアレント」は和製英語ですが、欧米にも「ヘリコプターペアレント」という言葉があるように、この問題は非常にシビアなのです。抱え込んで精神を病む教員も増えています。だから、担任が一人で悩むということがないように、組織的に受け止めて、解決を図ることが大事です。
 教育先進国のフィンランドには、担任に負荷がかからないような仕組みがあります。日本でいう教頭(副校長)のもと、心理療法士や看護士、ソーシャルワーカーなどが集まり、担任が直面する問題をサポートするシステムです。
 たとえば、自分のクラスに不登校の児童・生徒がいたら、担任が経緯を伝え、家庭訪問や心のケアなどの継続管理は管理職や専門職がやるんです。担任はクラスの運営、教育に専念できるわけです。非常にシステム的ですよね。
 日本では問題解決までも個人の才覚や努力に委ねているところが多い。テレビドラマでもカリスマ教師が八面六臂の活躍で一人で問題を解決しますね。構造的かつシステムとして問題を解決するという冷静で論理的な筋書きになっていないです。(笑)

――保護者にとっても辛い社会状況です。

 特に母子家庭や父子家庭は大変です。全労働者の35 %が非正規という時代の中で、特に高いのが母子家庭の非正規の割合です。生活費を稼ぐため、必死で働き、子どもとの時間を削らざるを得ないのが実情でしょう。
 大変でしょうが、かけがえのない成長の時期に、できるだけ親子で共に過ごす時間を持ってほしいですね。
 私からは、地域の公共施設を活用することをお勧めします。たとえば、お休みの日は、お子さんと一緒に図書館に行ってみてはどうでしょうか。お金もかかりませんし、そこで得た「知」と「思い出」は、一生の財産となります。

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