日野原重明 1911年山口県生まれ。京都大学医学部卒業。聖路加国際病院理事長・名誉院長。医師に任せっきりにしない患者参加の医療を持論とする。05年文化勲章受章。97歳の現在も、医師としての活動を続けている。著書は『生きかた上手』『十歳のきみへ』ほか多数。 |
――小学校で「いのちの授業」をされていますね。
2年以上前から全国あちこちで、毎週のようにやっています。外国でもやりました。子どもたちを見ていて感じるのは、10歳はもう大人だということです。目や耳は鋭いし、お父さんやお母さんの気持ちは読めるし、先生の目から先生の性格が読みとれるほど成長しています。大人は10歳を子どもだと思っていますが、十分に成長しているので、「いのちの授業」ができるのです。僕の授業もびっくりするぐらいわかってくれます。
――授業はどんな様子で進みますか。
教室に入るときは、先生に校歌の前奏を弾いてもらいながら、子どもたちの中に入り、指揮をします。僕が校歌を知っているだけでなく、指揮ができるんだと、みんなびっくりします。そのあと校長先生から「97歳の先生の話があります」と紹介されます。ぶっつけ本番ですが、最初から授業に一体感が生まれます。
授業では、黒板にチョークで横に長〜く線を引いて、ここが100歳、ここが97歳、ここが0歳と目盛りをふります。最初の子に「きみの年齢を線の上に書いてごらん」というと、見当で印をつけます。次の子にあてると、その子も推測で印をつけます。「合っているの?」と、僕が聞くと、みんな自信がありません。子どもたちが示した「10歳の長さ」の10倍を計ってみると、80歳ぐらいの長さだったり、70歳ぐらいの長さだったりします。
そこで僕は100の長さの半分の50の位置に印をつけ、その半分に25の位置に印をつけます。そうすると、10歳がどの辺かだいたいの見当がつきます。僕は子どもたちに「本当に算数習っているの?」と、ひやかしたりしています。
また、授業では僕が教卓の上に足をかけたりもします。若いときにハイジャンプの選手だったので簡単に上がります。97歳がこんなに足が上がるのかと、みんなびっくりします。そして、授業の終わりごろに子どもたちに「何歳まで生きたい?」と聞くと、100歳、120歳と返事が返ってきます。ふつうのおじいさん、おばあさんは70歳〜80歳ぐらいだけど、僕を見ると可能性を感じてくれるんですね。
――いのちをどう説明されているのですか?
いのちは見えないし、さわれないし、感じられません。子どもたちに「時間は見える?」って聞くんです。「昨日も今日も見えないけれど、寝たり、勉強したり、遊んだりするのは、きみたちの持っている時間を使っているんだよ。時間を使っていることが、きみが生きている証拠。時間の中にいのちがあるんだよ」と、伝えています。
――子どもたちに、どう育ってほしいと思いますか?
いのちを愛する人間になってほしいです。外国人も日本人も、黒人も白人も、すべて同じいのちです。できれば、動物ももっと愛してほしい。アリがはっているのにつぶしたりしない。彼らもいのちを持っているのです。
いのちを大切にするためには、けんかしないこと、人を傷つけないことです。それが平和なのです。いじわるされても「今度からするなよ」と言って許してあげることが大事です。
米国同時多発テロの9.11事件でアメリカは大きな犠牲を払いましたが、その後に2倍3倍の武力を行使したために、ロンドンやスペインなどにもテロが拡大しました。やり返すことは永久運動です。どこかで許さないといけません。
いのちの授業では、「大きくなったら、きみの持っている時間を人のいのちのために尽くしてはどうか」とも言っています。未来を担う子どもたちには、世界中の子どもたちと手を取り合って、いのちを大切にする運動を起こしてほしいと思っています。