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検証! 教育・子育てにかかる費用とその課題

 諸外国と比べ、格段に私費負担が多いといわれる日本の教育費。
このことは、子どもたちの生活や進路、描く未来にどう影響してくるのでしょうか。
 今号の特集では、子どもにかかる教育費・生活費の試算と教育費についての保護者アンケート結果の紹介を通して日本の教育制度上の課題を考えます。

1 子供が独り立ちするまでにかかる教育費・生活費は?

 OECD(経済協力開発機構)が発表しているデータによると、日本は高等教育機関(大学など)における教育費を大きく私費に依存しており、公的負担は35.2%と、OECD平均の半分ほどにとどまっています(1-1)。こうした状況の中、日本において一人の子どもが生まれてから大学を卒業するまでにかかる総費用はどれくらいか、公表されている複数の調査結果から、編集部が試算しました。試算によると、0〜22歳までにかかる教育費を除く生活費は約1751万円に上ります(1-2)。内訳を見ると、食費が630万円で最も割合が高く、次いでレジャー・旅行費が続きます。大学は、自宅通学の場合と下宿の場合では、4年間で約200万円の差が生じます。

1-1 高等教育の公費私費負担割合 1-2 子どもにかかる生活費

 教育費は、教育段階ごと、公私立別に算出しました(1-3)。就学前については、共働き世帯の増加などにより保育所利用者が増えていることを踏まえ、幼稚園と保育所にかかる費用をそれぞれ算出しました。授業料だけでなく、給食費、教材費、制服など通学用品代、PTA会費など学校に通うためにかかる費用の他、習い事や塾など、学校外での教育費も含まれています。
 授業料が無償の公立小中学校でも、年間にかかる教育費は小学校で約32万、中学校では約48万円になる計算です。どの教育段階でも、公立と私立では大きく異なっています。

1-3 公私立別に見た学校教育費

 算出した基本的生活費と教育費に基づいて、進学する学校の公・私立別に子どもにかかる費用をいくつかの例で積算した図が(1-4)です。保育所に通い、その後すべての教育段階で国公立学校に進学した場合、子ども一人あたりにかかる費用は、高校までで2409万円、大学まで含めると2894万円になります。幼稚園からすべて私立校に通学し、私立大学の理系学部に進学した場合は、4401万円に上り、進学コースによって大きな差が生じます。
 同世代のほぼ全員が進学する高校と比べ、日本の大学進学率は5割程度になります。そのうち約8割は学費の比較的高額な私立大学に入学しており(1-5)、その負担は保護者や学生本人に重くのしかかっています。経済格差によって教育の機会が失われることのないよう、教育費負担のあり方の見直しが急がれます。

1-4 進学コース別に見た子供にかかる総費用 1-5 高校卒業者の進路状況と大学入学者の国公・私立の割合

2 保護者の負担感は増加 経済状況で進学を諦める例を

 教育・子育てにかかる費用に関する保護者の意識を把握するため、(一社)社会応援ネットワークが、0〜22歳の子どもを持つ全国の保護者2300人に、アンケート調査を実施しました。
 調査によると、教育費について「かなり負担」「やや負担」と答えた保護者は、82.6%にのぼり、4人に3人以上が負担感を感じています。2007年、12年に実施した類似の調査と経年比較すると、「かなり負担」と答えた保護者が07年の22.2%から18.6ポイント増加するなど、家庭における教育費への負担感が大幅に増加していることが分かります(2-1)

2-1 教育費の負担感

 教育費の負担感の増加は、子どもの進学にも影響を与えています。第一子を進学させたい教育段階として、「特に決めていない」を除くと、88%が大学以上と回答しています。
 一方で、「現在の所得水準で希望する進学先に進学できるか」という質問には、「節約しても難しい」との回答が15.7%に上っています。世帯年収別にみると(2-2)、「(節約せずに)可能」という回答は年収800万円以上で半数を超えます。15年の平均世帯年収である545.8万円(厚生労働省「国民生活基礎調査」)を基準にすると、これを含む年収599万円未満では、「可能」が18.1%に対し、「節約しても難しい」は30.3%にも上ります。
 これらの意識には、地域格差も見て取れます。居住地別でみると、「節約しても難しい」と答えた保護者は、首都圏・関西圏・中京圏の都市圏で14.2%だったのに対して、その他の地域では19.2%でした。

2-1 今の所得で希望進学先へ進学可能か

3 経済状況にかかわりなく希望する誰もが学べる環境を

 経済的事情により進学の断念や中途退学を余儀なくされる子どもの増加は、格差拡大につながると指摘されています。公平な進学機会の確保は、貧困の連鎖を断ち切り、子どもの自己肯定感を育みます。社会全体で支えることが必要です。
 機会均等を図る支援制度は教育段階ごとにあります。義務教育段階の「就学援助制度」、高校段階の「就学支援金制度」、各種「奨学金制度」や大学の「授業料減免制度」などです(3-1)

3-1 国・自治体による各種支援制度

 国際的に見て、日本の奨学金制度の遅れが指摘される中、大学生への支援を担う日本学生支援機構は、2018年度から、住民税非課税世帯を対象とした「給付型奨学金」の導入を決めました。今回の社会応援ネットワークの調査では、給付型奨学金を「大幅に拡充すべき」「できれば拡充すべき」と回答した保護者が77.5%に上っており、さらなる支援の拡充が求められています(3-2)

3-2
専門家の視点1 子どもの成長を社会全体で支える視点を

NPO法人キッズドア代表
渡辺由美子さん

 日本の学校は、義務教育期間は無償とされていますが、副教材費やランドセル、制服などは家庭負担です。格差が広がる中、この部分が子どもたちにも影を落としています。
 ある中学生は調理実習で必要なエプロンや三角巾が家庭には一枚もなく、買うこともできず、「忘れました」と報告するしかありませんでした。ある家庭では、学校指定の制服の購入代金を入学前に用意できず、分割払いで入学後も支払い続けました。学びの準備段階でのこうした困難は、子どもの自己肯定感を低下させる要因になっていると感じます。
 以前、イギリスで子どもの入学の際、学校に持っていくものを尋ねたら、「特にありません」と言われ驚きました。鉛筆や定規など毎日使うものは寄付を募り、学校やクラスで共有していました。制服もグレーのズボンに白いシャツなどの原則はあっても、日本のような学校指定品はなく、家庭の事情に合わせて選べました。子どもたちが社会生活の出発点である学校で嫌な思いをしないよう、社会で等しく学べる環境を整える、という強い社会的合意を感じました。
 日本でも、教育を社会全体で考えるべき時期がきているのではないでしょうか。

専門家の視点2 支援を必要とする人に情報が届く仕組み作りを

東京大学 大学総合教育研究センター教授
小林雅之さん

 大学進学のための経済的支援制度については、今、給付型奨学金が話題となっていますが、その他にも様々な制度があります。例えば、「授業料減免制度」や家計急変の際の救済措置などです。自治体によっては、独自の支援金や 貸与型奨学金の返還免除の仕組みもあります。卒業後の所得に応じて返還額が決める「所得連動返還型」も始まりました。
 一方、制度の存在を知らなかったり、「奨学金を借りると借金漬けになる」など、インターネット上の情報をうのみにしてしまったりして、進学を諦めてしまう例があります。生活が苦しい人ほど、必要な情報にアクセスできない「情報格差」の問題です。そうした人々にどう情報を届けるかは大きな課題です。
 その試みの一つとして、「スカラシップ・アドバイザー派遣事業」が始まりました。学生支援機構の講習を受けたファイナンシャルプランナーが高校などで経済支援制度の周知をしたり、相談窓口として資金計画のアドバイスをしたりすることで大学進学をサポートします。
 教育の機会均等を確保するためには、支援制度の充実と両輪で、支援を必要とする人へ周知する仕組みの整備が求められます。

教育の機会均等に向けた環境整備は急務ですね
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