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「情報モラル」「メディア・リテラシー」
現代の子どもに必要な
情報教育のあり方とは

急速に進む情報化の流れは、「ネットいじめ」や「ネット犯罪」など、子どもが巻き込まれるトラブルも生み出しています。警察庁の統計では、2013年にSNSなどが起因で犯罪被害に遭った子どもの数は1293人で、前年と比較して約2割も増加しています(※)。 今号では、子どもたちが情報を正しく安全に活用するための、「情報モラル教育」や情報を多角的に読み解く「メディア・リテラシー教育」などの情報教育について特集します。

※警察庁 平成26年広報資料「コミュニティサイトに起因する児童被害の事犯に係る調査結果について」

取材協力
岐阜聖徳学園大学教授
石原一彦さん

1956年生まれ。1984年から2006年まで滋賀県の小学校教諭を務める。06年岐阜聖徳学園大学助教授、「情報モラル教育」指導手法等検討委員会委員。08年より現職。

弘前大学講師
森本洋介さん

1980年生まれ。京都大学大学院教育学研究科研究員を経て2012年より現職。著書に『メディア・リテラシー教育における「批判的」な思考力の育成』など。

1.子どもたちを取り巻くメディア環境とリスク

 LINEやFacebookなどをはじめとするソーシャルメディアの台頭は、子どもたちのメディア環境を大きく変化させています。

 2013年度の総務省調査結果によると、10代のソーシャルメディアの一日の利用時間は、48・1分で、前年度の約2倍。この背景には、わずか1年で36・7%から63・3%と利用率が飛躍的に伸びたスマートフォンの普及があります。急激な変化は、子どもたちに新たなトラブルを生み、学校現場では、スマートフォンなどに関係する生徒指導上の問題が数多く発生しています(グラフ1)。メディアや機器の特性上、教職員や保護者の目が届きにくく、SNSなどに起因する児童被害も増加しています(グラフ2)。

 ここでは、子どもたちが巻き込まれる可能性のある代表的なリスクについて紹介します。

グラフ1 インターネットやスマホを含む携帯電話に関係する生徒指導上の問題(複数回答) グラフ2 出会い系サイト及びSNS・プロフィールサイト等に起因する被害児童数の対比

LINE疲れ

 LINE上のメッセージを受信者が読んだかどうかを送信者自身が確認できる「既読機能」によって、「早く返信しなくては」との強迫観念にかられたり、「既読が付いたのに返信されない」と心配したりして疲れてしまうこと。LINE上のいじめや仲間外れも社会問題となっている。

デジタルタトゥー

 デジタル上で記録され、公開された情報は半永久的に残り、閲覧される可能性があることから刺青に例えられる。この特性を理解せずに利用すると、自分や人を将来に渡り傷つけてしまう可能性がある。恋人との関係が破綻した腹いせに、過去にスマートフォンなどで撮影した写真や動画をネット上に公開する「リベンジポルノ」も、この種の問題。

2.情報環境の変化と新時代の情報教育

 インターネットや携帯電話の普及に伴い、情報環境が大きく変化する中、2003年に高校で「情報」が必修科目化。小中学校では、総合学習の時間などを活用し、様々なとりくみが行われています。そんな教育現場が今、情報教育の核として注目する概念が、「情報モラル」と「メディア・リテラシー」です。専門家に話を聞きました。

岐阜聖徳学園大学 石原一彦さん
情報モラル教育を推進し情報倫理と情報安全を培う

 経済格差が広がる中、情報面でも情報をうまく使いこなせる情報強者と、情報にうとく、知らず知らずに利用されてしまう情報弱者が生まれています。学校での情報モラル教育が、今後ますます重要になってきます。

 情報モラル教育には、「情報倫理」「情報安全」という2つの側面があります。「ネット上の書き込みは、思いやりをもって」など、日常の道徳心やマナーを情報化社会の中でどう活用するかを考える「情報倫理」。肖像権や著作権、情報セキュリティなどデジタルメディアの特性を踏まえ、情報の安全性や危険性を考える「情報安全」です。

 ネット上では、意図に反して人や社会に大きな影響を及ぼす恐れがあります。まずは、特性を知り、自分の身を守る。さらに発信する場合は責任が伴うことを自覚する必要があります。

 情報モラル教育の教材の多くは、「こうしてはダメ、ああしてはダメ」というNG集ベースのいわゆる「禁止教材」です。ですが、これでは子どもたちは興味を持てないばかりか、的確な判断力も身につきません。むしろ積極的にパソコンやタブレットなどの端末を用いて、掲示板やチャットなどを疑似体験させ、実践的に著作権や肖像権の本質を子どもたち自らに考えさせるような授業がおすすめです。

 学校で実際に情報のやりとりを行いながら、望ましい情報活用のあり方を学んでいく。要は学校での疑似体験を通して「21世紀型」のコミュニケーション能力を身につける「生きる力」を育む学習と言えるでしょう。

弘前大学 森本洋介さん
メディア・リテラシー教育で情報を分析・評価する能力を

 「見るな」と言われれば、見たくなるのが人間の性。メディア・リテラシー教育では、様々な情報に触れざるを得ない中、「作り手の意図は何なのか」「誰がどんな目的で利用しているか」といった多角的な視点からメディアを読み解くことに重点を置きます。さらに、自分が情報の作り手となり発信する活動を表裏一体で進めることで、より正確に情報を分析し、評価できる能力を育むことができます。

 メディア・リテラシー教育を学校で実施する際は、年間計画、各時限の学習目標を立て、子どもが日常的に接しているような教材を選択します。これが何より重要で、同時に最も負担に感じる部分でもあるでしょう。

 最初は難しく考えず、教員自身の興味の範囲で、学習目標に合うと感じるものを選んでも構いません。テレビ番組やゲームなど、子どもたちの関心の高い題材をリサーチし、その中から教材を探すのもよいでしょう。

 テレビ番組やサイトを教材にしても、特別な手法は必要ありません。通常の国語の授業で、「各段落の意味を分析する」、「説明文全体の構成を理解する」といった手順で授業展開するのと同様に、教材内容に対して、教員が様々な観点から問題提起を行い、子どもの主体的なとりくみを促せばよいのです。

3.「情報モラル」と「メディア・リテラシー」実践例

【メディアリテラシー指導実践例】
「私のメディア史」
小学4年生〜高校生
ワークシート

ワークシートはhttp://www.mlpj.org/cy/cy-pdf/ml_material_worksheet.doc からダウンロードできます。
【指導計画・学習活動】
教員自身が普段よく接するメディア・テクスト(テレビの番組名、インターネットサイト等)を紹介。
【ポイント】

子どもが意外に思うようなテクスト(子ども時代のものでもよい)を挙げる方が、興味を惹きつけられる。

「わたしのメディア史」(ワークシート)を各自で記入。
【ポイント】

具体的な作品名などを挙げ、よく遊ぶゲームやよく観るテレビ、新聞などを記入するよう指示。「基本的に何でも良い」と言い添える。

グループになり、記入した「わたしのメディア史」を1人ずつメンバーに説明。終了後、クラス全体に発表する準備を行う。
【ポイント】

1グループ4〜5名に。「話し合いに正解は無い」と、自由な討論を促す。「これを言うのは恥ずかしい……」という気持ちを取り除く。

各グループで議論した内容をクラス全体へ発表。
【ポイント】

話し合いの過程をきれいに整理させたり、誰が何を言ったかを突き止めさせたりする必要はない。目的は各班の話し合いの過程を把握すること。

ねらい 今までどんなメディアと付き合ってきて、なぜ今現在そのメディアと付き合っているのかを意識化できるようになる。
【情報モラル指導実践例】
「情報を正しく使おう」
小学高年生〜高校生
情報活用トレーニングノート
(PCやタブレットで学ぶデジタル教材)

※体験版あり
「情トレ」にはhttp://www.jotore.com/からアクセス
【指導計画・学習活動】
パソコンやケータイの利用経験、コミュニケーションツールを使った際のトラブルについて話し合う。
【ポイント】

クラスのみんなで共有できる軽微な経験を出し合って、話し合わせる。

「情トレ」にログイン。掲示板の使い方を説明し、実名を使って書き込み。掲示板の内容を読み、実名で返信。書き込みを終了し、タイムラインの特性やメリット、危険性について話し合い、ワークシートにまとめる。
【ポイント】

人権侵害や不適切な書き込みがないか注意。ワークシートには実名で書き込むことの「良さ」や「危険性」など項目を分けてまとめる。

匿名でのトークや、掲示板、メールの体験を通して、情報モラルを学ぶことができる。PC、タブレットなどの端末やOSを問わず利用可能。
ニックネーム(匿名)で掲示板へ書き込み。掲示板の内容を読み、匿名で返信。実名と匿名の違いについて話し合い、ワークシートにまとめる。
【ポイント】

「実名を表示しても良いか」と確認してから、「実名表示」に切り替える。匿名であっても、IPアドレスから誰が書いたかを特定されることを学んでもらう。

振り返りシートに学習したことや理解したことなどを記録。
【ポイント】

「今日のめあて」は◎○△×で自己評価。

ねらい 情報発信には責任が伴うこと、情報の使い方を誤れば人を傷つけることもあると理解する。
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